この記事の目次
  1. 退院時の情報は、施設での一日につなげて読む
  2. 病院から確認したい医療情報
    1. 診断、治療経過、今後の見通し
    2. 退院時の服薬情報
    3. 医療処置、禁忌、急変時の連絡
  3. ADLは「できる/できない」の先を聞く
  4. 食事・嚥下・排泄は毎日のケアへ直結する
  5. 認知機能と意思疎通は、その人らしさを支える情報
  6. 本人の希望と、家族が担える範囲
  7. 職種ごとの役割を整理する
  8. 情報が足りないとき、入所後に返すこと
    1. 不足を埋める手順
    2. 個人情報の扱い
    3. 入所後の情報を返す
  9. よくある質問
    1. 退院時サマリーがあれば、ほかの確認は不要ですか
    2. ADLは要介護度で判断できますか
    3. 医療処置があっても施設へ入所できますか
    4. 本人と家族の希望が違うときはどう記録しますか
  10. まとめ

「歩行見守り」と書かれた退院時の書類を受け取って、施設で実際に歩いてもらうと、廊下の距離ではふらつきが出た。病室内での見守りと、施設での生活は別物です。こうしたずれは、受け入れの現場でよく起こります。

病院から介護施設へ引き継ぐ情報は、病名と薬だけでは足りません。治療経過、医療処置、急変時の留意点。そこに起き上がりや移乗、食事・嚥下、排泄、睡眠、認知・意思疎通、本人の希望、家族や在宅サービスの状況まで加わって、はじめて施設での一日が組み立てられます。

問われるのは書類の枚数ではありません。「施設で誰が、いつ、どのように支援するか」へ結びつく具体性です。足りない情報は推測で埋めず、必要な理由と回答期限を添えて病院へ照会します。

退院時の情報は、施設での一日につなげて読む

厚生労働省は、居宅介護支援事業所と医療機関の入退院時連携について、「入院時情報提供書」「退院・退所情報記録書」の電子連携標準仕様を示しています。

これは居宅介護支援の加算に関する標準仕様・様式例で、病院から介護施設への全国一律の必須様式ではありません。ここでは、施設が受け入れるときの確認項目を整理する参考として扱います。

様式を埋めるだけでは、生活場面は見えてきません。「歩行見守り」が病室内だけなのか、夜間も同じなのか。それによって施設の準備は変わります。

共有する情報施設で必要になる理由追加で確認したいこと
疾患・治療経過変化の兆候と受診計画を引き継ぐ現在の状態、予想される変化、次回受診
服薬配薬、服用介助、残薬確認を安全に行う退院時の最終処方、中止・変更薬、服用時点
医療処置職種、物品、時間帯を調整する手順、頻度、禁忌、連絡先
ADL移乗、排泄、入浴時の介助量を決めるできる動作、必要な声かけ、福祉用具、時間帯差
食事・嚥下窒息や誤嚥のリスクを考え、食形態をそろえる食形態、水分形態、姿勢、見守り、義歯、摂取量
認知・意思疎通説明方法、環境調整、不安への支援を考える理解しやすい言葉、補聴器、眼鏡、普段の反応
本人・家族の希望生活目標と支援方針を考える本人の言葉、家族との相違、未決定事項
支援体制通院、物品、金銭、緊急連絡の担当を決める主な連絡先、家族の対応可能範囲、関係事業所

病院から確認したい医療情報

診断、治療経過、今後の見通し

入院の原因、治療中の疾患、合併症、現在の病状、退院後の受診先を確認します。「安定」で終わらせず、どの変化が出たら医療機関へ連絡するのかまで聞いておきます。予後や治療方針を介護職や相談員が推し量ることはせず、医師・看護師へ確認してください。

退院時の服薬情報

退院時処方、お薬手帳、薬剤情報提供書を照合し、薬名、用法、服用時点、頓服の条件、中止・変更薬、アレルギー・副作用歴を確認します。施設職員が自己判断で薬を外したり砕いたりはせず、疑問点は医師・薬剤師へ戻します。入所当日のどの服用分から施設が管理するかも決めておきます。

医療処置、禁忌、急変時の連絡

酸素療法、喀痰吸引、経管栄養、カテーテル、ストーマ、血糖管理、褥瘡。これらは手順、頻度、物品、実施者、観察点、連絡先を確認します。設定値や処置内容は、正式な指示書を基準にします。

居宅介護支援の退院・退所情報記録書等の様式例には、退院後に必要な事柄として、医療処置、食事制限、食形態、嚥下、排泄、皮膚状態、睡眠、認知機能・精神面、服薬指導、リハビリテーションなどの確認欄があります。施設が実際に使う様式や必要書類は、病院と施設の運用に沿って確認します。

ADLは「できる/できない」の先を聞く

ADLは日常生活動作のことです。施設で知りたいのは、できるかどうかよりも、どんな環境と介助があればできるのか、という部分です。

生活場面確認する内容曖昧な表現を具体化する質問
寝返り・起き上がりベッド柵、手順、痛み、介助量どちら側からなら起きやすいか
立ち上がり・移乗支持物、介助位置、ふらつき、禁忌一人介助か二人介助か、膝折れはあるか
移動歩行器、車いす、距離、見守り病室内と廊下で介助量は同じか
排泄トイレ、ポータブル、おむつ、尿意・便意昼夜の違い、失敗しやすい時間はあるか
入浴・更衣洗える部位、浴槽移動、衣服の選択痛みや息切れが出る動作は何か
食事姿勢、食具、介助量、所要時間疲れる時間帯、むせる食品はあるか

病棟と施設では、移動距離も設備も違います。入院前の様子、退院時の状態、施設で想定する環境。この3つを分けて聞いておくと、入所後の差が小さくなります。

食事・嚥下・排泄は毎日のケアへ直結する

食事では、主食・副食と水分の形態、姿勢、食具、義歯、介助方法、摂取量を確認します。病院と施設で食形態の呼び名が違うことがあるため、硬さや大きさまで具体化します。嚥下評価を受けていれば、評価した職種、実施日、推奨された方法も共有します。施設側だけで食形態やとろみ量を変えることはしません。

排泄では、尿意・便意の伝え方、移動、衣類の操作、失禁、便性、夜間の様子を確認します。カテーテルやストーマは、管理方法とトラブル時の対応も引き継ぎます。

認知機能と意思疎通は、その人らしさを支える情報

「認知症あり」「会話可能」だけでは、どう声をかければよいか分かりません。理解しやすい説明の仕方、痛みの伝え方、補聴器や眼鏡、落ち着く習慣を確認します。

混乱については、介護職が原因を決めつけず、発生時刻、日内変動、睡眠、発熱、薬の変更などを事実として共有します。「不穏」の一語で片づけず、本人が実際に話した言葉と、落ち着いたときの対応を残します。

本人の希望と、家族が担える範囲

本人が退院後に続けたいこと、心配していることを確認します。本人と家族の希望が食い違うときは、どちらか一方にまとめず、違いがあること自体を共有してください。ここを曖昧にしたまま入所すると、あとで方針が揺れます。

家族が通院同行、物品補充、金銭管理、緊急時対応のどこまで担えるかも具体化します。入院前から関わっている訪問看護、薬局、ケアマネジャーなどの連絡先も引き継ぎます。

職種ごとの役割を整理する

職種主に確認・共有する内容境界として注意すること
医師診断、治療方針、病状、予後、医療上の指示他職種が医学的判断を代行しない
看護師医療処置、観察点、療養上の注意、看護経過施設で実施できる手順は受け入れ側と調整する
薬剤師退院時処方、変更薬、服薬方法、残薬介護職が薬を独自に変更しない
リハビリテーション職動作、介助方法、禁忌、福祉用具病院と施設の環境差を確認する
管理栄養士・言語聴覚士栄養、食形態、嚥下、食事姿勢施設側で再現可能か具体的に調整する
MSW心理・社会・経済的課題、制度、地域支援の調整診断や治療方針は決定しない
ケアマネジャー・施設相談員本人の生活、サービス、家族・関係機関との調整医療上の不明点は医療職へ戻す
介護職日常生活上の観察、できる動作、必要な支援、入所後の変化診断、処方、医療処置の可否を独断で決めない

2026年3月改正の厚生労働省「医療ソーシャルワーカー業務指針」は、MSWが心理的・社会的・経済的課題を早期に捉え、多職種と連携する役割を示しています。他職種の業務範囲、患者の主体性、個人情報の尊重も求められています。

情報が足りないとき、入所後に返すこと

不足を埋める手順

  • 文書と口頭説明を照合する
  • 不明点を医療、ADL、生活、本人の希望に分ける
  • 確認する職種と回答期限を決める
  • 回答者、日時、内容を記録し、入所後の再評価へつなぐ

「吸引あり」だけでは、回数も時間帯も物品も緊急時の対応も分かりません。何を決めるための照会なのかを示し、安全に関わる項目は責任者どうしで確認します。

個人情報の扱い

本人への説明と同意、事業所の規程、法令に沿って、誰に何を何のために共有するのかを明確にします。厚生労働省の医療・介護関係事業者向け個人情報ガイダンス(令和8年4月一部改正)もあわせて確認します。メールで送る際は、宛先、添付、アクセス権、保存先を確かめ、必要な職員へ必要な範囲だけ共有します。

入所後の情報を返す

入所後の食事量、動作、医療処置、受診につながった変化は、必要に応じて主治医、訪問看護、薬局、ケアマネジャーへ返します。退院時の想定と実際の差は、環境や時間帯を含めた事実として共有します。

この往復があると、次に同じ方が入退院するときの精度が上がります。施設から病院へ情報を返す習慣は、施設で暮らせる範囲を病院側に知ってもらうことにもつながります。

よくある質問

退院時サマリーがあれば、ほかの確認は不要ですか

サマリーは重要な書類ですが、移乗、排泄、食事、夜間の様子、本人の希望など、施設生活に必要な情報がすべて入っているとは限りません。不足分は個別に確認します。

ADLは要介護度で判断できますか

要介護度だけでは、個々の動作や必要な介助方法は分かりません。寝返り、移乗、移動、排泄、食事などを場面ごとに確認してください。

医療処置があっても施設へ入所できますか

本人の状態、処置内容、必要な頻度、施設の人員・設備・契約条件によって変わります。情報提供だけで受け入れが決まるわけではなく、個別の確認が必要です。

本人と家族の希望が違うときはどう記録しますか

どちらか一方にまとめず、本人の言葉と家族の希望を分けて記録します。説明を受けた内容、まだ決まっていない点、今後話し合う場も共有しておきます。

まとめ

病院から介護施設への情報共有では、医療と生活を別々の書類で終わらせず、施設での一日につなげて読みます。疾患、治療、服薬、処置に加えて、ADL、食事・嚥下、排泄、認知・意思疎通、本人の希望、家族と地域の支援体制。ここまでそろって、受け入れの準備が組めます。

それぞれの情報がどのケアに使われるのかを明らかにし、足りない部分は確認先と期限を決める。職域と個人情報を守りながら、入所後の変化も関係者へ返していく。この往復が、退院後の生活を支えます。

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参考にした一次情報

確認日:2026年8月13日