この記事の目次
  1. 病院で亡くなる人は、少しずつ減っている
  2. 「施設では何もできない」という前提を、一度外してみる
    1. 住宅型有料老人ホームは、制度の上でも「自宅」に近い
    2. 医療との連携は、強化される方向にある
  3. 病院と施設は、目的が違う
  4. 「療養型へ」と勧められたときに、確認したいこと
  5. 延命するかしないか。その二択の前に
    1. 「良い医師」とは、どういう医師でしょうか
  6. 施設にできること、できないこと
  7. 私たちが大事にしていること
  8. よくある質問
    1. 医療依存度が高くても施設で過ごせますか
    2. 医師から療養型病院を勧められました。断ってもよいのですか
    3. 施設で看取りまでお願いできますか
    4. 本人の希望が分からないときはどうしますか
  9. まとめ

ちょっとした体調不良で入院された方が、思ったより早く回復して、そろそろ施設に戻れそうだ。ご本人も「帰りたい」と言っている。ところが退院前の面談で、医師から療養型の病院への転院を勧められる。ご家族は「先生がそうおっしゃるなら」と受け入れ、その方は施設に戻らないまま、病院で亡くなる。

最近、こういうことが続いています。転院してから弱っていくのが早い方もいます。私たちは正直なところ、もやもやしています。

転院そのものを否定したいわけではありません。医学的に病院での療養が必要な状態はありますし、その判断ができるのは医師だけです。ただ、「施設では見られないから病院へ」という前提で話が進んでいるのだとしたら、そこには少し誤解があるかもしれない。この記事は、その誤解を解いておきたくて書いています。

病院で亡くなる人は、少しずつ減っている

厚生労働省の人口動態統計を見ると、亡くなる場所は20年あまりで大きく変わりました。2000年には病院・診療所で亡くなる方が81.0%を占めていましたが、2023年には65.7%まで下がっています。

代わりに増えたのが、老人ホームや介護医療院などの施設と、自宅です。施設で亡くなる方は2.4%から15.5%へ、自宅は13.9%から17.0%へ。合わせると3割を超えます。

数字が示しているのは、病院以外の場所で最期を迎えることが、すでに珍しくないという事実です。制度も、その方向で整備が進んできました。

「施設では何もできない」という前提を、一度外してみる

介護施設は医療機関ではありません。それは事実です。ただ、そこから「だから医療が必要な方は暮らせない」と結論するのは、少し飛躍があります。

住宅型有料老人ホームは、制度の上でも「自宅」に近い

住宅型有料老人ホームは、生活の場としての住まいです。入居している方は、自宅にいるときと同じように、外部の訪問介護、訪問看護、訪問診療を利用します。介護保険も医療保険も、在宅の方と同じ枠組みで使えます。

私たちが「施設は在宅と同じ立ち位置だ」と考えているのは、気持ちの問題ではなく、制度上そうなっているからです。自宅で訪問診療と訪問看護を受けながら暮らせる方は、条件が整えば施設でも同じように暮らせます。

医療との連携は、強化される方向にある

2024年度の介護報酬改定では、介護保険施設に対して、入所者の急変時に対応できる協力医療機関との連携体制を整えることが義務づけられました。2027年までの経過措置期間中で、現在は各施設が体制づくりを進めているところです。あわせて協力医療機関連携加算も新設されました。

看取りについても、看取り介護加算という仕組みがあります。医師が医学的知見に基づいて回復の見込みがないと診断した方について、本人や家族の同意のもとで計画を立て、医師・看護職員・介護職員が連携してケアを行う場合に算定できるものです。

この加算は、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿った取り組みを前提にしています。

つまり、施設で最期まで過ごすことは、制度が想定している選択肢のひとつです。

病院と施設は、目的が違う

病院は、治すための場所です。検査があり、治療があり、そのために生活が組み立てられます。24時間の医療体制があることは、施設にはない大きな強みです。

施設は、暮らすための場所です。何時に起きて、何を食べて、誰と話して、どこへ出かけるか。その一日の積み重ねが中心にあり、医療はそれを支えるために入ってきます。

どちらが優れているという話ではありません。ただ、治療の目標が「治すこと」から「その人らしく過ごすこと」へ移ったとき、必要な場所も変わることがあります。ここの切り替えが、うまく共有されないまま話が進んでしまう。それが今、私たちが感じている難しさです。

もうひとつ、率直に書いておきます。医師や看護師の方が、施設での過ごし方や生活環境、実際にできることを詳しくご存じないまま判断されている場面があるように感じます。

無理もない部分はあります。病院から見えているのは、入院中のその方の姿だけです。施設での一日を見る機会は、ほとんどないはずです。要するに、情報が届いていないのだと思っています。

「療養型へ」と勧められたときに、確認したいこと

ご家族の立場では、医師の勧めを断るのは簡単ではありません。医学的なことは分かりませんし、断ることで本人に不利益が及ぶのではないかとも考えます。

ただ、これは本人の暮らす場所を決める話です。次の点を確認してから決めても、遅くはありません。

確認すること具体的な聞き方
転院が必要な医学的理由どの治療や管理が、病院でなければできないのか
期間の見通し一時的な転院か、そのまま長期になる想定か
戻る可能性状態が落ち着いたら、元の生活の場へ戻れるのか
施設で対応できる範囲必要な医療処置を、施設と訪問看護で担えないか
本人の希望本人はどこで過ごしたいと言っているか
生活面の変化転院後、面会や外出、日中の過ごし方はどうなるか

とくに4つ目は、施設に直接聞いてみてください。医師が「施設では無理だろう」と判断されていても、施設側は「その処置なら訪問看護と組めば対応できます」と答えられる場合があります。実際、そういうすれ違いは起こります。

入院前から関わっているケアマネジャーや施設の相談員を、退院前のカンファレンスに呼ぶのも有効です。生活の場を知っている人が話に入るだけで、選択肢の見え方は変わります。病院から介護施設へ何を伝えるかも参考にしてください。

延命するかしないか。その二択の前に

最期の話になると、「延命治療を希望しますか」という質問から入ることが多いように思います。書類に丸を付ける場面もあります。

けれど、本当に決めなければならないのは、そこではないはずです。残された時間をどこで、誰と、どう過ごしたいのか。何を食べたいのか。何をもう一度したいのか。その先に、医療をどこまで使うかという判断が付いてきます。

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」も、本人による意思決定を基本に置いています。

医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を検討したうえで、本人と話し合って方針を決める。気持ちは変化するものなので、繰り返し話し合う。本人の意思が確認できないときは、家族などが本人の意思を推定し、それを尊重する。こういう組み立てです。

この順番が大事です。本人がどう過ごしたいかが先にあって、医療がそれを支えます。逆ではありません。

「良い医師」とは、どういう医師でしょうか

延命によって一日でも長く生きられるようにする医師と、本人が持っている力で生きることを選ばせてくれる医師。どちらが良い医師なのか。私たちの中でも答えは出ていません。場面によっても違うはずです。

ただ、ひとつはっきりしていることがあります。どちらを選ぶかを決めるのは、本人と家族だということです。医師が示すのは医学的な見通しと選択肢であって、その方の生き方まで決める立場にはありません。ガイドラインが本人の意思決定を基本に置いているのは、そういう意味だと理解しています。

だからご家族には、「先生がそう言うから」で終わらせないでほしいと思っています。分からないことは聞いていいですし、本人が別のことを望んでいるなら、それを伝えていい。それは医師に逆らうことではありません。

施設にできること、できないこと

期待だけを書くのは不誠実なので、限界も正直に書いておきます。

まず、介護職員は医行為を行えません。喀痰吸引と経管栄養については、研修を受けた介護職員が一定の条件のもとで実施できますが、それ以外の処置は看護職員や医師が担います。夜間に看護職員がいない体制であれば、対応できる範囲はさらに限られます。

急変時にすぐ検査や処置ができるのは、やはり病院です。人工呼吸器の管理や、頻回な点滴、状態が不安定な時期の集中的な治療。こうしたものが必要な段階では、病院で過ごすほうが本人にとって安全です。

そのうえで、私たちは「制度上できないこと」と「やったことがないからできないと思っていること」を分けて考えるようにしています。前者は動かせません。けれど後者は、訪問看護や訪問診療と相談すれば、できるようになることがあります。

受け入れられるかどうかは、本人の状態、必要な処置の内容と頻度、施設の人員体制によって変わります。一律の線引きはありません。だから「この状態では無理だろう」と決める前に、一度聞いてみてほしいのです。

私たちが大事にしていること

施設の役割は、その方がその方らしく最期を迎えられるよう、お手伝いすることだと考えています。

やりたいことがあるなら、その手助けをします。もう一度お寿司が食べたい、庭を見たい、孫に会いたい、家に一度帰りたい。実現できないこともありますが、できる方法を探すところまではやります。

法的にできないことや、安全上どうしても難しいことはあります。それでも、その手前で諦めない。そこは譲らずにいたいと思っています。

入院された方が「早く戻りたい」と言ってくださるような場所であること。それが、私たちの目指しているところです。戻りたいと思われない施設なら、そもそもこの話は成り立ちません。

ご本人が施設に戻りたいと言っているのに、周りの判断でそれが叶わない。この状況が積み重なるのは、やはり違うと思うのです。

よくある質問

医療依存度が高くても施設で過ごせますか

状態と処置の内容によります。必要な医療処置の種類と頻度、施設の人員体制、訪問看護や訪問診療との連携体制を個別に確認したうえで判断します。一律に線を引くことはできないので、まずはご相談ください。

医師から療養型病院を勧められました。断ってもよいのですか

医学的な判断は尊重すべきですが、どこで過ごすかを決めるのは本人と家族です。転院が必要な医学的理由、期間の見通し、戻れる可能性を確認したうえで、本人の希望も含めて話し合ってください。施設側の意見を聞くこともできます。

施設で看取りまでお願いできますか

当社の施設では看取りまで対応しています。医師の診断、本人と家族の同意、医療との連携体制を前提に、計画を立てて進めます。途中で気持ちが変わった場合も、その時点で相談し直せます。

本人の希望が分からないときはどうしますか

ご家族などが、本人ならどう考えるかを推定して尊重する、というのがガイドラインの考え方です。元気なうちに話しておけると判断しやすくなります。久留米市の「私の生き方ノート」のような冊子を使う方法もあります。

まとめ

病院で亡くなる方の割合は、2000年の81.0%から2023年には65.7%へ下がりました。施設や自宅で最期を迎える方は、着実に増えています。

施設は治療の場ではありませんが、暮らしの場です。住宅型有料老人ホームは制度上も在宅と同じ枠組みで、訪問診療や訪問看護と組みながら支えていきます。医療依存度が高い方でも、条件が整えば施設で過ごせる場合があります。

「療養型へ」と勧められたときは、転院が必要な医学的理由、期間、戻れる可能性、そして本人の希望を確認してください。施設に直接聞いてみると、対応できる範囲が違って見えることもあります。

延命するかしないかという二択の前に、どこでどう過ごしたいかがあります。決めるのは本人と家族です。迷ったときは、施設にもご相談ください。生活の場を知っている人間が話に入るだけで、見える選択肢は変わります。

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参考にした一次情報

この記事は2026年8月18日時点の公表情報をもとに作成しました。制度の内容は改定によって変わります。個別の判断については、主治医、ケアマネジャー、施設へご相談ください。

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