この記事の目次
  1. 申し送りは「記録の読み上げ」ではない
  2. 状態変化が伝わる5項目
    1. 1. 事実は時刻と場面から書く
    2. 2. 変化は普段との比較で示す
    3. 3. 対応は行った順に書く
    4. 4. 結果は対応後の状態を残す
    5. 5. 次勤務への依頼は行動で終える
  3. 主観語を観察できる言葉へ直す
  4. 緊急報告と通常の申し送りを分ける
    1. 緊急報告で先に伝えること
    2. 通常の申し送りで扱うこと
  5. 伝わりにくい例と改善例
    1. 伝わりにくい例
    2. 改善例
  6. 申し送り前の30秒確認
  7. よくある質問
    1. 申し送りは全利用者について行うべきですか
    2. 「特変なし」と書いてはいけませんか
    3. SBARを使う決まりがありますか
    4. 本人の発言はそのまま記録しますか
    5. 口頭で伝えれば記録は不要ですか
  8. まとめ
  9. 参考にした一次情報

申し送りの時間が長い。記録を読み上げているだけで、次の勤務者に何を頼みたいのかが伝わらない。そんな場面はないでしょうか。

介護職の申し送りに書くのは、次の勤務者がこれからのケアを安全に続けるために必要な変化です。急変、事故、医療職からの指示、未実施の対応は先に伝え、日常と変わらない情報は記録で確認できるようにします。

この5項目は、国が定めた唯一の法定書式ではありません。情報を落とさず短く組み立てるための実務上の整理法です。事業所に所定の様式、報告基準、緊急連絡網がある場合は、そちらを優先してください。

申し送りは「記録の読み上げ」ではない

記録は、実施したケアや利用者の状態を後から確認できるよう残すものです。申し送りは、その記録のうち、次の勤務者が行動するために今知る必要がある情報を選び、意味が伝わる順番で渡すものです。

厚生労働省は、介護分野の生産性向上を単なる時間短縮ではなく、人材育成、チームケアの質の向上、情報共有の効率化につなげる取組と位置づけています。厚生労働省「介護分野における生産性向上とは」では、記録の書き方が職員ごとに異なり、正確な情報共有ができない状態を「ムラ」の一例として挙げています。

申し送りが長いほど丁寧とは限りません。全利用者の食事量や排泄回数を順番に読むと、急変の兆候や未完了の処置が埋もれます。反対に、「特変なし」だけでは、何を観察して変化なしとしたのか分かりません。記録と口頭連絡の役割を分けることが必要です。

情報基本の扱い理由
急変、転倒、誤薬疑い、所在不明など緊急報告を優先し、その後記録次の申し送り時間まで待てない
医師・看護職からの新しい指示速やかに共有し、指示内容と確認者を記録実施漏れや解釈違いを防ぐ
未実施のケア、返答待ち、再観察予定申し送りで明示次勤務者の行動が必要になる
普段から変わらない日常情報所定の記録へ残す重要情報が埋もれるのを避ける
利用者の希望や拒否言葉と状況を記録し、必要に応じて共有本人の意向とケアの経過をつなぐ

状態変化が伝わる5項目

短くても伝わる申し送りは、結論を削るのではなく、観察事実と次の行動がつながっています。次の5項目を一つずつそろえます。

項目書く内容確認する問い
1. 事実いつ、どこで、何が起きたか見たことと推測を分けているか
2. 変化普段と比べて何が違うか比較する基準が書かれているか
3. 対応誰に報告し、何を行ったか指示と自己判断が混ざっていないか
4. 結果対応後にどうなったか時刻と再観察の内容があるか
5. 次勤務への依頼何を、いつまでに確認するか行動する人と期限が分かるか

1. 事実は時刻と場面から書く

「朝から調子が悪い」ではなく、「7時40分、朝食前、居室でベッド脇に座り込んでいた」のように、確認した時刻と場面を置きます。本人の発言は、必要な範囲で「右膝が痛いと話した」と記録します。介護職が原因を推測して「関節炎の痛み」と書くのは避けます。

2. 変化は普段との比較で示す

状態変化は、数字だけでも形容詞だけでも伝わりにくいものです。「朝食3割。普段は8割程度」「トイレまで歩行器で移動していたが、本日は立ち上がり時に2回膝折れがあった」のように、本人の通常時と比べます。

いつもの状態が分からない応援職員や新人でも理解できる表現を選びます。「いつもより悪い」と書くなら、何がどの程度違うのかを続けてください。

3. 対応は行った順に書く

観察、声かけ、安全確保、看護職への報告、受けた指示、実施したケアを時系列にします。「看護師対応済み」では、誰が何を確認し、どんな指示が出たのか分かりません。指示者、指示時刻、内容を記録します。

4. 結果は対応後の状態を残す

対応をした事実だけで終えず、その後どうなったかを記録します。「臥床後20分、本人は痛みが軽くなったと話す」「再測定値は所定の記録欄参照」のように、再観察の時刻と事実を置きます。変化がない場合も、「変化なし」とした観察項目を示します。

5. 次勤務への依頼は行動で終える

「様子を見てください」では、人によって見る内容が変わります。「10時の移乗前に右膝の痛みを本人へ確認し、立ち上がり時の膝折れがあれば看護職へ再報告」のように、確認項目、時刻や場面、報告条件を具体化します。

主観語を観察できる言葉へ直す

現場で使い慣れた言葉でも、受け手が同じ意味に取るとは限りません。「不穏」「わがまま」「問題行動」「拒否が強い」といった評価語だけでは、本人に何が起きていたかが消えてしまいます。

伝わりにくい表現観察事実を加えた表現
不穏だった21時から22時の間に居室と廊下を4回往復し、「家に帰る」と3回話した
食事を拒否した配膳時に顔を背け、「今は食べたくない」と話した。30分後の再勧奨でも摂取なし
元気がない昼食は2割で、午後の体操に参加せず、14時から居室で横になっている
立位が不安定便座からの立ち上がり時、両膝が曲がり、介助者が体幹を支えた
よく眠れた21時消灯後、巡視時は0時と3時に入眠。2時に一度トイレへ起きた

評価語を完全に禁止するというより、その根拠となる事実を残すことが目的です。本人の尊厳に配慮し、記録を読む家族や他職種にも誤解されにくい表現を選びます。

緊急報告と通常の申し送りを分ける

意識、呼吸、激しい出血、急な麻痺など、事業所が緊急報告の対象として定める変化は、勤務交代まで保留しません。まず安全を確保し、緊急連絡手順に従います。申し送りは、その対応後に経過をつなぐために行います。

緊急報告で先に伝えること

  • 利用者を特定する情報
  • 現在起きていることと発生時刻
  • 意識、呼吸、出血など確認できた状態
  • 現在の居場所と安全確保の状況
  • すでに連絡した相手と受けた指示

緊急時には、5項目をきれいに文章化してから連絡する必要はありません。事業所の手順に沿い、現在の状態を先に伝えます。記録は、対応が落ち着いた段階で時系列を確かめて残します。

通常の申し送りで扱うこと

食事、排泄、睡眠、移動、皮膚、認知・心理面の変化のうち、次勤務のケアや再観察に影響するものを選びます。医療職からの指示変更、家族からの連絡、受診予定、物品不足、未完了業務も対象です。

口頭連絡だけで、法令・運営基準、サービス計画、事業所手順上の記録対象となるサービス実施状況、状態変化、事故・緊急時対応、指示・結果を省略することはできません。

一方、申し送りで交わした全発言を別文書へ重複して書くかどうかは、事業所の記録要領に従います。緊急性と重要性を考え、記録、口頭、業務用ツールを使い分けます。

厚生労働省の令和6年度改訂版「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」も、情報共有をチームケアに必要な取組として扱っています。

伝わりにくい例と改善例

次は、特定の利用者を扱った実例ではなく、書き方を比較するための例です。

伝わりにくい例

「Aさん、夕方から不穏。夕食拒否。看護師に報告済み。夜勤で様子を見てください」

この文では、いつ、何が起き、何を不穏と見たのか、看護職から何を指示されたのか、夜勤者が何を見るのかが分かりません。

改善例

「17時20分、食堂で配膳後に『家に帰るので食べない』と話し、席を3回立った。夕食摂取なし、水分100ミリリットル。17時40分に看護職へ報告し、発熱や痛みの有無を確認して経過を見るよう指示あり。

18時の体温は所定欄参照。痛みの訴えなし。20時の水分摂取量と、帰宅を求める発言・離席回数を確認し、増える場合は看護職へ再報告してください」

文章を長くすることが目的ではありません。急ぐ情報を前へ出し、次勤務者が何をするかまで一本につながっていることが大切です。

申し送り前の30秒確認

確認点はいと答えられる状態
優先順位急変、指示変更、未完了事項を先にしている
事実と推測見たこと、本人の言葉、推測を分けている
時刻発見、報告、対応、再観察の時刻がある
比較普段と何が違うか分かる
次の行動誰が、いつ、何を確認するか分かる
記録口頭だけで終わらず、所定の場所へ残している

個人情報を含む申し送りは、業務上必要な職員の間で、事業所が認めた方法を使います。廊下やエレベーターなど第三者に聞かれる場所で詳細を話したり、私物のメッセージアプリへ送ったりしません。

よくある質問

申し送りは全利用者について行うべきですか

事業所の運用に従います。そのうえで、次勤務の行動に影響する変化、指示、未完了事項を優先し、日常と変わらない情報は所定の記録で確認できるようにします。

「特変なし」と書いてはいけませんか

言葉自体が禁止されているわけではありません。ただし、観察項目や普段の状態が共有されていないと意味が伝わりません。必要な記録欄を埋めたうえで使います。

SBARを使う決まりがありますか

事業所が採用している場合は、その手順に従います。本記事の5項目も含め、全国一律の唯一の申し送り文型として示すものではありません。

本人の発言はそのまま記録しますか

ケアに関係する言葉は、必要な範囲で引用すると意図が伝わります。人格を評価する表現に置き換えず、発言した場面や、その後の様子も添えます。

口頭で伝えれば記録は不要ですか

緊急時は口頭連絡を先にし、対応後に、法令・運営基準、サービス計画、事業所手順で記録対象となる事実、指示、結果を所定様式へ残します。申し送りの全発言を別文書へ重ねて記載する必要性は、事業所の記録要領に従ってください。

まとめ

申し送りは、勤務中に起きたことを全部並べる時間ではありません。次の勤務者が安全にケアを続けるために、事実、変化、対応、結果、次勤務への依頼をつなげて渡します。

主観語を観察事実へ置き換え、発見時刻と普段との差を示し、最後を具体的な行動で終える。緊急情報は申し送り時間を待たずに報告し、口頭連絡後も記録を残します。事業所の様式を生かしながら、誰が読んでも同じ場面を想像できる言葉を選ぶことが、申し送りの質を支えます。

参考にした一次情報

確認日:2026年8月13日