この記事の目次
  1. 噛みやすさと、飲み込みやすさは別のもの
  2. お粥が食事の途中でサラサラになる理由
    1. 唾液のアミラーゼが、でんぷんを分解する
    2. 起きやすいのは、こういう場面
    3. 現場でできるのは「唾液を混ぜない」工夫まで
  3. 食前・食事中・食後に何を見るか
    1. 食前
    2. 食事中
    3. 食後
  4. 異変に気づいたときの3段階
    1. 1.迷わず119番
    2. 2.追加の一口を止めて報告
    3. 3.繰り返す変化は多職種の評価へ
  5. とろみや食形態を、現場の判断で変えない
  6. 記録と申し送りは「見た事実」と「対応」を残す
  7. 介護職の役割と、専門職の役割
  8. 家族には、不安をあおらず事実と方針を伝える
  9. 高齢者のお粥と誤嚥に関するFAQ
    1. 介護職員の判断で、普通のご飯からお粥へ変えてよいですか
    2. お粥へ唾液が混じらないようにするには
    3. お粥がサラサラしてきたらどうしますか
    4. むせがなければ問題ありませんか
    5. 家族から「とろみを濃くして」と頼まれたら
  10. まとめ
    1. 関連ページ
    2. 参考資料

昼食の途中で、お粥の表面に水が浮いてくる。介護の現場では珍しくない場面です。配膳したときはとろりとまとまっていたのに、半分ほど食べ進めたあたりから米粒と水分が分かれ、いつの間にかサラサラになっている。この状態のお粥は、飲み込みにくくなる方がいます。

「お粥なら安全」とも「お粥は危険」とも言い切れません。介護職員の仕事は、診断でも食形態の処方でもなく、食事中の変化に気づき、事業所で決めた手順に沿って中断・報告し、記録に残すことです。呼吸や反応に関わる緊急サインが出たときだけは、所内の連絡より119番が先になります。

噛みやすさと、飲み込みやすさは別のもの

お粥はやわらかい。ご飯より噛みやすい食べ物です。ただし噛みやすさと飲み込みやすさは別です。飲み込みやすさは、口の中でひとまとまりになるか、水分だけが先にのどへ流れていかないか、といった条件に左右されます。

  • 噛みやすさは、歯や義歯、あご、舌を使って食べ物を細かくし、まとめられるかどうか
  • 飲み込みやすさは、まとまったものをのどへ送り、気道へ入れずに食道へ運べるかどうか

日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」も、咀嚼能力と嚥下能力は一致しない場合があるとしています。ご飯からお粥へ替えたことで、飲み込みの問題まで解決したとは考えないでください。

誤嚥と誤嚥性肺炎も、別のことを指します。誤嚥は食べ物や飲み物、唾液などが気管へ入ること。誤嚥性肺炎は、それらや胃液と一緒に細菌を気道へ吸い込んで起こる病気です。お粥やとろみで肺炎を防げるわけではありません。

お粥が食事の途中でサラサラになる理由

唾液のアミラーゼが、でんぷんを分解する

唾液に含まれるα-アミラーゼには、でんぷんを分解するはたらきがあります。スプーンが口に入り、唾液が付いたまま器へ戻る。これを何度か繰り返すうちに、お粥のでんぷんに唾液が作用して粘りが弱まり、米粒と水分が分かれます。これが「離水」です。

「嚥下調整食分類2021」のQ&Aでも、全粥であっても食事中に離水する場合があるとして、少量ずつ取り分けて唾液の混入を避ける工夫が示されています。

唾液のアミラーゼがお粥のでんぷんに作用して離水が起きる流れの図解

起きやすいのは、こういう場面

器から直接すくって介助し、そのスプーンを何度も戻す食べ方では、唾液の混ざる量が増えます。食事に時間がかかる方も、その分だけ器の中で反応が進みます。逆に、取り分けた小皿を短時間で食べ終える方なら、最後まで性状が変わらないこともあります。

すべてのお粥が離水するわけではありませんし、離水したから必ず誤嚥するわけでもありません。調理や調整の方法、食事にかかる時間、唾液の混ざり方、その方の状態で変わります。だからこそ、配膳時に一度見て終わりにしません。食事の間ずっと、器と本人の両方を見ます。

現場でできるのは「唾液を混ぜない」工夫まで

取り分け用の器とスプーンを分ける、一度に盛る量を減らす、口に触れたスプーンを元の容器へ戻さない。ここまでは手順で整えられます。ただし、これで離水を完全に防げるわけではなく、誤嚥を防ぐ対策でもありません。離水したかどうかは、そのまま申し送りに残す情報です。

離水したお粥では、液体が米粒より先にのどへ進むことがあります。固形物と液体が同時に口の中にある状態は、飲み込みの難しさが上がる要因のひとつです。

食前・食事中・食後に何を見るか

見る目的は、原因を突き止めることではありません。「いつもと違う」を見つけて、中断と報告につなげることです。食形態、姿勢、一口量、とろみの個別指示と、事業所の手順をあらかじめ確認したうえで食事に入ります。

食前

  • 食札・食事指示・申し送りと、配膳された食形態やとろみが合っているか
  • 呼びかけへの反応や覚醒の程度が普段どおりか。眠気が強すぎないか
  • 呼吸、顔色、体温、全身の様子に普段との違いがないか
  • 義歯のずれ、口の痛み、強い乾燥がないか
  • 指示された姿勢を無理なく保てるか
  • 配膳の時点で、すでにお粥の上に水分が浮いていないか

食事中

ここがいちばん情報の多い時間帯です。器の状態と本人の様子を、交互に見続けます。

  • 指示された一口量と介助のペースを守り、飲み込んでから次へ進めているか
  • かき込み、口へのため込み、口からのこぼれがないか
  • お粥の粘りが途中で弱まり、水分が分かれていないか
  • むせや咳を繰り返す、声が湿ったように変わる、のどがゴロゴロするといった変化がないか
  • 何度も飲み込む、いつもより時間がかかる、急に疲れた様子が出ていないか
  • 息苦しさ、声が出せない、咳ができない、顔色が明らかに悪いといった変化がないか

食後

  • 口の中に食べ物が多く残っていないか
  • 食後も咳や湿った声が続いていないか
  • 痰、呼吸、表情、元気の様子に普段との違いがないか
  • 食事量と水分量が大きく減っていないか
  • 発熱、食欲低下、元気のなさが続いていないか
  • 観察したこと、行った対応、報告先を記録できたか

日本摂食嚥下リハビリテーション学会の評価資料は、湿性嗄声(湿り気を帯びたゴロゴロ・ゼロゼロした声)を誤嚥の徴候のひとつに挙げています。ただし、この声だけで誤嚥と決まるわけではありません。どう聞こえたか、どの場面だったかを記録して報告します。

日本呼吸器学会が示す発熱、咳、膿のような痰、元気や食欲の低下も相談のきっかけになりますが、これも単独では誤嚥性肺炎とは診断できません。それから、嚥下障害が重い方は誤嚥してもむせないことがあります。むせがないことを安全の根拠にはできません。

異変に気づいたときの3段階

1.迷わず119番

次の状態が見られたら食事を中止し、その場で119番へ通報します。事業所内の連絡を待って通報を遅らせないでください。

  • 声が出せない
  • 咳ができない、または咳が急に弱くなった
  • 息ができない、急に呼吸が苦しくなった
  • 顔色が明らかに悪い
  • 呼びかけへの反応がない
  • 普段どおりの呼吸がない

消防庁のWEB講習も、窒息時は直ちに119番と案内しています。通報と並行して、訓練を受けた職員は事業所の手順と指令員の指示に従い、状況に応じて気道異物の除去などの応急手当を行います。訓練を受けていない職員が自己流で行うことはしません。

2.追加の一口を止めて報告

呼吸と反応が保たれていても、むせや咳、湿った声、口へのため込み、急な疲れなどがあれば、そこで飲食を止めます。呼吸・反応・顔色を確認し、119番のサインがなければ、事業所で定めた中断・再開の手順に沿って看護職や責任者へ報告します。再開してよいかどうかを介護職員が判断することはありません。

発熱や膿のような痰、食欲・元気の低下も、誤嚥性肺炎と決めつけずに報告します。急に呼吸が苦しくなった場合は、その時点で119番です。

3.繰り返す変化は多職種の評価へ

緊急性がなくても、むせ、食事時間の延長、食事量や体重の減少、肺炎の反復が続くようなら、多職種へ共有します。医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士、看護師などが、嚥下、口腔、栄養、疾患、薬、食形態を評価します。介護職員が伝えるのは、どの場面でどう変わったかという事実です。

とろみや食形態を、現場の判断で変えない

とろみをつけると液体の流れが遅くなり、液体の誤嚥が減る方がいます。ただし、その方に合うかどうかは嚥下機能や濃さによって違います。事故や肺炎を防ぐ万能の手段ではありません。

もうひとつ、液体に付く粘度は温度や製品によっても変わります。本人に合うかどうかという話と、調製時に濃さが揺れるという話は、分けて考えてください。

国立長寿医療研究センターは、濃すぎるとろみによる咽頭残留や、水分摂取が減ることによる脱水の懸念を挙げています。学会も、濃いとろみによる味や摂取量の変化、製品によるべたつきなどを指摘しています。濃くすれば安全、ではありません。

次のことは、介護職員だけで行わないでください。

  • 普通のご飯からお粥へ、または別の食形態へ変更する
  • とろみ調整食品を新たに加える、量を増やす、減らす
  • 別の製品へ同じ分量のまま置き換える
  • サラサラになったお粥へ目分量で粉を足す
  • むせがないことだけを理由に、とろみを外す

専門職の評価と指示、事業所の中断・再開手順、製品の説明書に従います。指示どおりに用意しても食べにくそうなときは、現場で調整しません。再評価を依頼してください。

記録と申し送りは「見た事実」と「対応」を残す

「お粥でむせた」だけでは、次に読む人が判断できません。次の順で書き残すと、あとから読み返すときに困りません。

  • いつ、どの場面だったか。朝食か昼食か、開始時・途中・終盤・食後のどこか
  • 何を食べていたか。全粥などの名称、飲み物、副菜、とろみの指示
  • 性状がどう変わったか。配膳時と異変時のまとまり具合、水分の分離
  • 本人にどんな変化が出たか。咳、むせ、声、呼吸、顔色、口の中の残り、疲れ
  • どのくらいの一口量で、何回起きたか。食事の摂取量はどうだったか
  • 自分が何をしたか。食事の中止、姿勢の確認、119番、看護職などへの報告
  • そのあとどうなったか。呼吸と顔色、症状が続いたか、再開してよいかの確認内容
  • 誰にいつ報告し、どの指示を受けたか

申し送りは、たとえばこう書きます。

12時10分、昼食の全粥。開始時は離水なし。半量ほどで水分が浮き、次の一口後に咳3回、声が湿ったように変化。事前手順で中断。呼吸と顔色は普段どおり。12時13分に看護職Aさんへ報告し、手順上の判断者から再開しないとの連絡を受けた。

記録様式と中断・再開の手順は事業所ごとに違います。自分の事業所で定めたものを優先してください。そして緊急時は、記録より119番が先です。

介護職の役割と、専門職の役割

決められた方法で介助し、変化を見つけてチームへつなぐ。ここが介護職員の担当範囲です。原因の診断や食形態の処方とは、線を引いて考えます。

場面介護職員が行うこと専門評価・組織判断が必要なこと
食事前食札・指示・申し送り、体調、覚醒、義歯、姿勢を確認する食事開始の条件、姿勢や介助方法、判断者を事前に定める
お粥の扱い手順に沿って少量ずつ取り分け、口に触れた食具を元の容器へ戻さないお粥の種類、硬さ、まとまり、調整方法を選ぶ
食事中指示された一口量とペースを守り、性状と本人を繰り返し見るむせや残留の原因を評価し、一口量や食べ方を設定する
とろみ指示された製品・分量・手順を守り、摂取量を記録する必要性、濃さ、製品、変更や中止の時期を判断する
異変時緊急サインは119番。それ以外は事前の手順に従って中断・報告する再開条件と判断者を組織で定め、検査・診断・治療・食形態を再評価する
継続支援食事量、水分量、体重、むせ、離水の変化を記録・共有する嚥下、口腔、栄養、疾患、薬の影響をあわせて評価する

観察と報告の基準は、手順書だけでは身につきません。申し送り、事例検討、研修。繰り返し確認することになります。当社の介護職員の研修・教育体制もあわせてご覧ください。

家族には、不安をあおらず事実と方針を伝える

家族へ伝えるのは、噛みやすさと飲み込みやすさが違うこと、その日に観察した事実、これからチームで確認する方針の3点です。長く説明する必要はありません。

お粥はやわらかく食べやすい一方で、食事中に水分が分かれることがあります。本日は途中で水分の分離と咳が見られたため食事を中止し、看護職へ報告しました。食形態は介護職だけで変更せず、多職種で確認します。

診断、処方、食形態の変更は、医師や歯科医師などの判断を多職種で共有してから実施します。ここを曖昧にしたまま家族へ説明すると、あとで話が食い違います。

高齢者のお粥と誤嚥に関するFAQ

介護職員の判断で、普通のご飯からお粥へ変えてよいですか

変えません。観察した内容を看護職や責任者へ報告し、専門職の評価と事前の手順に従います。

お粥へ唾液が混じらないようにするには

学会は少量ずつ取り分ける工夫を示しています。事業所の手順に沿い、口に触れた食具を元の容器へ戻さないでください。ただし、これで誤嚥を防げるわけではありません。

お粥がサラサラしてきたらどうしますか

自己判断で水分を除いたり粉を足したりせず、事前の手順に従って追加の一口を止めます。呼吸・反応・顔色を確認し、緊急サインがあれば119番、それ以外は報告します。

むせがなければ問題ありませんか

そうとは限りません。嚥下障害が重い方は、誤嚥してもむせないことがあります。湿った声、痰、発熱、食欲低下だけで誤嚥や肺炎と断定はできませんが、変化として記録し報告してください。

家族から「とろみを濃くして」と頼まれたら

その場では変更しません。濃すぎる場合の咽頭残留や摂取量の低下、脱水の懸念をお伝えしたうえで、ご希望は看護職や責任者へ共有します。

まとめ

お粥は噛みやすくても、飲み込みやすいとは限りません。食具を介して唾液のα-アミラーゼがでんぷんに作用すると、食事の途中で離水します。器の状態と本人の様子は、食事が終わるまで見続けることになります。

声が出せない、咳ができない、息ができない、急に呼吸が苦しくなった、顔色が明らかに悪い、呼びかけへの反応がない、普段どおりの呼吸がない。このいずれかがあれば119番です。

それ以外の異変は、事業所で定めた中断・再開の手順に従い、観察した事実を看護職と責任者へ報告します。食形態やとろみを現場で変えることはせず、記録を多職種の評価へつないでください。

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参考資料

参考資料の最終確認日:2026年7月17日

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