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昼食の途中で、お粥の表面に水が浮いてくる。介護の現場では珍しくない場面です。配膳したときはとろりとまとまっていたのに、半分ほど食べ進めたあたりから米粒と水分が分かれ、いつの間にかサラサラになっている。この状態のお粥は、飲み込みにくくなる方がいます。
「お粥なら安全」とも「お粥は危険」とも言い切れません。介護職員の仕事は、診断でも食形態の処方でもなく、食事中の変化に気づき、事業所で決めた手順に沿って中断・報告し、記録に残すことです。呼吸や反応に関わる緊急サインが出たときだけは、所内の連絡より119番が先になります。
噛みやすさと、飲み込みやすさは別のもの
お粥はやわらかい。ご飯より噛みやすい食べ物です。ただし噛みやすさと飲み込みやすさは別です。飲み込みやすさは、口の中でひとまとまりになるか、水分だけが先にのどへ流れていかないか、といった条件に左右されます。
- 噛みやすさは、歯や義歯、あご、舌を使って食べ物を細かくし、まとめられるかどうか
- 飲み込みやすさは、まとまったものをのどへ送り、気道へ入れずに食道へ運べるかどうか
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」も、咀嚼能力と嚥下能力は一致しない場合があるとしています。ご飯からお粥へ替えたことで、飲み込みの問題まで解決したとは考えないでください。
誤嚥と誤嚥性肺炎も、別のことを指します。誤嚥は食べ物や飲み物、唾液などが気管へ入ること。誤嚥性肺炎は、それらや胃液と一緒に細菌を気道へ吸い込んで起こる病気です。お粥やとろみで肺炎を防げるわけではありません。
お粥が食事の途中でサラサラになる理由
唾液のアミラーゼが、でんぷんを分解する
唾液に含まれるα-アミラーゼには、でんぷんを分解するはたらきがあります。スプーンが口に入り、唾液が付いたまま器へ戻る。これを何度か繰り返すうちに、お粥のでんぷんに唾液が作用して粘りが弱まり、米粒と水分が分かれます。これが「離水」です。
「嚥下調整食分類2021」のQ&Aでも、全粥であっても食事中に離水する場合があるとして、少量ずつ取り分けて唾液の混入を避ける工夫が示されています。

起きやすいのは、こういう場面
器から直接すくって介助し、そのスプーンを何度も戻す食べ方では、唾液の混ざる量が増えます。食事に時間がかかる方も、その分だけ器の中で反応が進みます。逆に、取り分けた小皿を短時間で食べ終える方なら、最後まで性状が変わらないこともあります。
すべてのお粥が離水するわけではありませんし、離水したから必ず誤嚥するわけでもありません。調理や調整の方法、食事にかかる時間、唾液の混ざり方、その方の状態で変わります。だからこそ、配膳時に一度見て終わりにしません。食事の間ずっと、器と本人の両方を見ます。
現場でできるのは「唾液を混ぜない」工夫まで
取り分け用の器とスプーンを分ける、一度に盛る量を減らす、口に触れたスプーンを元の容器へ戻さない。ここまでは手順で整えられます。ただし、これで離水を完全に防げるわけではなく、誤嚥を防ぐ対策でもありません。離水したかどうかは、そのまま申し送りに残す情報です。
離水したお粥では、液体が米粒より先にのどへ進むことがあります。固形物と液体が同時に口の中にある状態は、飲み込みの難しさが上がる要因のひとつです。
食前・食事中・食後に何を見るか
見る目的は、原因を突き止めることではありません。「いつもと違う」を見つけて、中断と報告につなげることです。食形態、姿勢、一口量、とろみの個別指示と、事業所の手順をあらかじめ確認したうえで食事に入ります。
食前
- 食札・食事指示・申し送りと、配膳された食形態やとろみが合っているか
- 呼びかけへの反応や覚醒の程度が普段どおりか。眠気が強すぎないか
- 呼吸、顔色、体温、全身の様子に普段との違いがないか
- 義歯のずれ、口の痛み、強い乾燥がないか
- 指示された姿勢を無理なく保てるか
- 配膳の時点で、すでにお粥の上に水分が浮いていないか
食事中
ここがいちばん情報の多い時間帯です。器の状態と本人の様子を、交互に見続けます。
- 指示された一口量と介助のペースを守り、飲み込んでから次へ進めているか
- かき込み、口へのため込み、口からのこぼれがないか
- お粥の粘りが途中で弱まり、水分が分かれていないか
- むせや咳を繰り返す、声が湿ったように変わる、のどがゴロゴロするといった変化がないか
- 何度も飲み込む、いつもより時間がかかる、急に疲れた様子が出ていないか
- 息苦しさ、声が出せない、咳ができない、顔色が明らかに悪いといった変化がないか
食後
- 口の中に食べ物が多く残っていないか
- 食後も咳や湿った声が続いていないか
- 痰、呼吸、表情、元気の様子に普段との違いがないか
- 食事量と水分量が大きく減っていないか
- 発熱、食欲低下、元気のなさが続いていないか
- 観察したこと、行った対応、報告先を記録できたか
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の評価資料は、湿性嗄声(湿り気を帯びたゴロゴロ・ゼロゼロした声)を誤嚥の徴候のひとつに挙げています。ただし、この声だけで誤嚥と決まるわけではありません。どう聞こえたか、どの場面だったかを記録して報告します。
日本呼吸器学会が示す発熱、咳、膿のような痰、元気や食欲の低下も相談のきっかけになりますが、これも単独では誤嚥性肺炎とは診断できません。それから、嚥下障害が重い方は誤嚥してもむせないことがあります。むせがないことを安全の根拠にはできません。
異変に気づいたときの3段階
1.迷わず119番
次の状態が見られたら食事を中止し、その場で119番へ通報します。事業所内の連絡を待って通報を遅らせないでください。
- 声が出せない
- 咳ができない、または咳が急に弱くなった
- 息ができない、急に呼吸が苦しくなった
- 顔色が明らかに悪い
- 呼びかけへの反応がない
- 普段どおりの呼吸がない
消防庁のWEB講習も、窒息時は直ちに119番と案内しています。通報と並行して、訓練を受けた職員は事業所の手順と指令員の指示に従い、状況に応じて気道異物の除去などの応急手当を行います。訓練を受けていない職員が自己流で行うことはしません。
2.追加の一口を止めて報告
呼吸と反応が保たれていても、むせや咳、湿った声、口へのため込み、急な疲れなどがあれば、そこで飲食を止めます。呼吸・反応・顔色を確認し、119番のサインがなければ、事業所で定めた中断・再開の手順に沿って看護職や責任者へ報告します。再開してよいかどうかを介護職員が判断することはありません。
発熱や膿のような痰、食欲・元気の低下も、誤嚥性肺炎と決めつけずに報告します。急に呼吸が苦しくなった場合は、その時点で119番です。
3.繰り返す変化は多職種の評価へ
緊急性がなくても、むせ、食事時間の延長、食事量や体重の減少、肺炎の反復が続くようなら、多職種へ共有します。医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士、看護師などが、嚥下、口腔、栄養、疾患、薬、食形態を評価します。介護職員が伝えるのは、どの場面でどう変わったかという事実です。
とろみや食形態を、現場の判断で変えない
とろみをつけると液体の流れが遅くなり、液体の誤嚥が減る方がいます。ただし、その方に合うかどうかは嚥下機能や濃さによって違います。事故や肺炎を防ぐ万能の手段ではありません。
もうひとつ、液体に付く粘度は温度や製品によっても変わります。本人に合うかどうかという話と、調製時に濃さが揺れるという話は、分けて考えてください。
国立長寿医療研究センターは、濃すぎるとろみによる咽頭残留や、水分摂取が減ることによる脱水の懸念を挙げています。学会も、濃いとろみによる味や摂取量の変化、製品によるべたつきなどを指摘しています。濃くすれば安全、ではありません。
次のことは、介護職員だけで行わないでください。
- 普通のご飯からお粥へ、または別の食形態へ変更する
- とろみ調整食品を新たに加える、量を増やす、減らす
- 別の製品へ同じ分量のまま置き換える
- サラサラになったお粥へ目分量で粉を足す
- むせがないことだけを理由に、とろみを外す
専門職の評価と指示、事業所の中断・再開手順、製品の説明書に従います。指示どおりに用意しても食べにくそうなときは、現場で調整しません。再評価を依頼してください。
記録と申し送りは「見た事実」と「対応」を残す
「お粥でむせた」だけでは、次に読む人が判断できません。次の順で書き残すと、あとから読み返すときに困りません。
- いつ、どの場面だったか。朝食か昼食か、開始時・途中・終盤・食後のどこか
- 何を食べていたか。全粥などの名称、飲み物、副菜、とろみの指示
- 性状がどう変わったか。配膳時と異変時のまとまり具合、水分の分離
- 本人にどんな変化が出たか。咳、むせ、声、呼吸、顔色、口の中の残り、疲れ
- どのくらいの一口量で、何回起きたか。食事の摂取量はどうだったか
- 自分が何をしたか。食事の中止、姿勢の確認、119番、看護職などへの報告
- そのあとどうなったか。呼吸と顔色、症状が続いたか、再開してよいかの確認内容
- 誰にいつ報告し、どの指示を受けたか
申し送りは、たとえばこう書きます。
12時10分、昼食の全粥。開始時は離水なし。半量ほどで水分が浮き、次の一口後に咳3回、声が湿ったように変化。事前手順で中断。呼吸と顔色は普段どおり。12時13分に看護職Aさんへ報告し、手順上の判断者から再開しないとの連絡を受けた。
記録様式と中断・再開の手順は事業所ごとに違います。自分の事業所で定めたものを優先してください。そして緊急時は、記録より119番が先です。
介護職の役割と、専門職の役割
決められた方法で介助し、変化を見つけてチームへつなぐ。ここが介護職員の担当範囲です。原因の診断や食形態の処方とは、線を引いて考えます。
| 場面 | 介護職員が行うこと | 専門評価・組織判断が必要なこと |
|---|---|---|
| 食事前 | 食札・指示・申し送り、体調、覚醒、義歯、姿勢を確認する | 食事開始の条件、姿勢や介助方法、判断者を事前に定める |
| お粥の扱い | 手順に沿って少量ずつ取り分け、口に触れた食具を元の容器へ戻さない | お粥の種類、硬さ、まとまり、調整方法を選ぶ |
| 食事中 | 指示された一口量とペースを守り、性状と本人を繰り返し見る | むせや残留の原因を評価し、一口量や食べ方を設定する |
| とろみ | 指示された製品・分量・手順を守り、摂取量を記録する | 必要性、濃さ、製品、変更や中止の時期を判断する |
| 異変時 | 緊急サインは119番。それ以外は事前の手順に従って中断・報告する | 再開条件と判断者を組織で定め、検査・診断・治療・食形態を再評価する |
| 継続支援 | 食事量、水分量、体重、むせ、離水の変化を記録・共有する | 嚥下、口腔、栄養、疾患、薬の影響をあわせて評価する |
観察と報告の基準は、手順書だけでは身につきません。申し送り、事例検討、研修。繰り返し確認することになります。当社の介護職員の研修・教育体制もあわせてご覧ください。
家族には、不安をあおらず事実と方針を伝える
家族へ伝えるのは、噛みやすさと飲み込みやすさが違うこと、その日に観察した事実、これからチームで確認する方針の3点です。長く説明する必要はありません。
お粥はやわらかく食べやすい一方で、食事中に水分が分かれることがあります。本日は途中で水分の分離と咳が見られたため食事を中止し、看護職へ報告しました。食形態は介護職だけで変更せず、多職種で確認します。
診断、処方、食形態の変更は、医師や歯科医師などの判断を多職種で共有してから実施します。ここを曖昧にしたまま家族へ説明すると、あとで話が食い違います。
高齢者のお粥と誤嚥に関するFAQ
介護職員の判断で、普通のご飯からお粥へ変えてよいですか
変えません。観察した内容を看護職や責任者へ報告し、専門職の評価と事前の手順に従います。
お粥へ唾液が混じらないようにするには
学会は少量ずつ取り分ける工夫を示しています。事業所の手順に沿い、口に触れた食具を元の容器へ戻さないでください。ただし、これで誤嚥を防げるわけではありません。
お粥がサラサラしてきたらどうしますか
自己判断で水分を除いたり粉を足したりせず、事前の手順に従って追加の一口を止めます。呼吸・反応・顔色を確認し、緊急サインがあれば119番、それ以外は報告します。
むせがなければ問題ありませんか
そうとは限りません。嚥下障害が重い方は、誤嚥してもむせないことがあります。湿った声、痰、発熱、食欲低下だけで誤嚥や肺炎と断定はできませんが、変化として記録し報告してください。
家族から「とろみを濃くして」と頼まれたら
その場では変更しません。濃すぎる場合の咽頭残留や摂取量の低下、脱水の懸念をお伝えしたうえで、ご希望は看護職や責任者へ共有します。
まとめ
お粥は噛みやすくても、飲み込みやすいとは限りません。食具を介して唾液のα-アミラーゼがでんぷんに作用すると、食事の途中で離水します。器の状態と本人の様子は、食事が終わるまで見続けることになります。
声が出せない、咳ができない、息ができない、急に呼吸が苦しくなった、顔色が明らかに悪い、呼びかけへの反応がない、普段どおりの呼吸がない。このいずれかがあれば119番です。
それ以外の異変は、事業所で定めた中断・再開の手順に従い、観察した事実を看護職と責任者へ報告します。食形態やとろみを現場で変えることはせず、記録を多職種の評価へつないでください。
関連ページ
参考資料
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「VF4:二相性食品(固形物と液体)の咀嚼嚥下」
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食嚥下障害の評価2015」
- 国立長寿医療研究センター「食事中にむせませんか?」
- 日本呼吸器学会「誤嚥性肺炎」
- 総務省消防庁「口頭指導要領」
- 総務省消防庁「応急手当WEB講習・普通救命講習編」
- 総務省消防庁「応急手当WEB講習・気道異物の除去(反応がある場合)」
- 総務省消防庁「救急車を上手に使いましょう」
- 宮城県リハビリテーション支援センター「要介護高齢者や障害者の摂食嚥下障害への基本的な対応フローチャート Ver.2.2.1」
参考資料の最終確認日:2026年7月17日
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