この記事の目次
  1. 人生会議は、暮らしの話から始めていい
  2. 2026年3月の改訂版は1冊になった
  3. 親子で話すきっかけは日常の中にある
    1. 家族が避けたい進め方
  4. 書き始めは「大切にしていること」から
  5. 希望は変わってよい
  6. 書いた後は共有と保管まで決める
  7. ノートを入手できる場所
  8. よくある質問
    1. 親が元気なうちに話してもよいですか
    2. 全項目を一度に書く必要がありますか
    3. 一度書いた希望は変えられませんか
    4. このノートは遺言書や治療拒否書になりますか
    5. 家族だけで書いてもよいですか
  9. まとめ

「もしものときのこと、そろそろ話しておきたいんだけど」。そう切り出したとたん、親に話をそらされた。介護の相談を受けていると、こういう話をよく聞きます。切り出し方が悪かったわけではなく、最初の一歩を医療の選択に置いたことで、身構えさせてしまうのです。

久留米市の「私の生き方ノート」は、まず本人が今大切にしていること、頼りたい人を話すところから始める冊子です。希望は後から変えて構いません。2026年3月の改訂版では、以前の2冊が1冊にまとまり、振り返る、考える、話す、伝える、という順序で使えるようになりました。

人生会議は、一度の話し合いで結論を出すものではありません。家族や医療・ケアチームと繰り返し話し、本人の考えを共有していく過程です。空欄をすべて埋めることより、話した内容に本人が納得しているか、必要な人へ伝わっているか。そちらのほうが大事です。

人生会議は、暮らしの話から始めていい

厚生労働省は人生会議(ACP)を、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族などや医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みと説明しています。

「最期をどうするか」と聞かれれば、たいていの人は身構えます。ただ、話の出発点は延命処置の選択に限りません。どこで過ごすと落ち着くか、何を楽しみにしているか、誰にそばにいてほしいか。日々の暮らしに近い問いのほうが、その人らしさは見えてきます。

財産や相続を扱う終活とも役割が違います。厚生労働省は、遺言作成や財産整理など手続き的な準備が中心となる終活に対し、人生会議は話し合いのプロセスだと整理しています。久留米市も「私の生き方ノート」を、治療やケアに関する話し合いを始めるためのものと位置づけています。

このノートは法的な遺言書の代わりにはなりません。ノートだけで個別の治療への同意や拒否が確定するわけでもありません。実際の医療方針は、その時点の状態について医療職から説明を受け、本人を中心に医療・ケアチームと十分に話し合って決めます。

2026年3月の改訂版は1冊になった

久留米市は2026年3月、「私の生き方ノート」を改訂しました。以前は「考えましょう編」と「話し合いましょう・伝えましょう編」の2冊でしたが、第2版では1冊に統合されています。

市が示す進め方は、ステップ0から5までです。

段階ノートで考えること家族の関わり方
ステップ0今の身体や心の状態を振り返る本人の言葉を遮らず、現状認識を聞く
ステップ1大切にしていることを考える暮らしや楽しみの話から始める
ステップ2信頼できる人を考える家族内で勝手に代理役を決めない
ステップ3主治医へ質問したいことを考える病気療養中でなければ省略してよい
ステップ4回復が難しい状態での医療やケアを話す情報不足のまま二者択一を迫らない
ステップ5気持ちや考えを必要な人へ伝える共有先と保管場所を本人と決める

順番どおりに一日で進める必要はありません。話しやすい項目から始め、重く感じるところではいったん止めます。市の「私の生き方ノート」案内ページから印刷用PDFを確認できます。

親子で話すきっかけは日常の中にある

家族が突然ノートを置いて「これを書いて」と言うと、本人は身構えます。病状を隠されているのではないか、施設へ入れられるのではないか。そう受け取られることもあります。何のために書くのかを先に説明し、答えたくない項目は飛ばしていいと伝えてください。

話を始めやすいのは、本人の経験に自然につながる時です。

  • 知人の入院や退院の話をしたとき
  • 健康診断や通院を終えたとき
  • 介護保険やかかりつけ医の情報を整理するとき
  • 誕生日や正月など、これからしたいことを話すとき
  • テレビや新聞で在宅医療を知ったとき

「延命治療をするか決めて」と迫るより、「入院して自分で話せないとき、誰に一番気持ちを分かっていてほしい?」と尋ねるほうが、答えの背景まで聞けます。それでも話したくないと言われたら、その日は続けません。話さないという選択も、本人の意思です。

家族が避けたい進め方

避けたい言い方・行動なぜ避けるのか置き換えるなら
「今ここで決めて」状況の説明がないまま結論を迫る「今日は大切にしていることだけ聞かせて」
「家族に迷惑をかけたくないよね」家族の負担を理由に答えを誘導する「あなたが困ること、不安なことは何?」
家族だけで記入する本人の言葉と家族の推測が混ざる書けないときは本人の了解を得て代筆する
一度書いた内容を固定する体調や経験で気持ちは変わり得る日付を残し、節目で読み直す
医療用語だけで選ばせる本人が場面を想像できない主治医へ意味と選択肢を質問する

書き始めは「大切にしていること」から

ノートを開いたら、病名や治療の話より先に、今の生活を振り返ります。庭を眺める時間、友人との電話、食事、家族との距離、宗教や信条。本人が手放したくないものは、医療やケアを考えるときの土台になります。

次に、自分で伝えられなくなったとき、気持ちを理解してほしい人を考えます。その人を選んだからといって、法的な代理権が生まれるわけではありません。ノートにも、信頼できる人に法的な権利があるわけではないと書かれています。選ばれた人には、本人が何を大切にしているかを普段から伝えておく必要があります。

病気で療養している方は、主治医へ聞きたいことをメモしておきます。病状、今後予想される経過、治療でできることと難しいこと、生活への影響。家族が医学的な見通しを推測して選択肢を狭めず、本人が理解できる言葉で説明してもらってください。

希望は変わってよい

厚生労働省が「繰り返し話し合う」としているのは、人の気持ちが健康状態や生活環境で変わるからです。元気なときに想像したことと、治療を経験したあとの考えが違う。これは不自然なことではありません。

書き直すときは、古い記録をこっそり消すより、日付を付けて現在の考えを残すほうが経過を共有しやすくなります。「以前は自宅を希望していたが、今は家族の近くで支援を受けたい」というように、変わった理由も本人が話せる範囲で添えておきます。

見直すきっかけは、入院や退院、病状の変化、介護サービスの開始、引っ越し、信頼する人の変更など。決まった頻度に縛られる必要はありません。暮らしが変わったときに開き直す、で十分です。

書いた後は共有と保管まで決める

ノートを書いても、保管場所を誰も知らなければ、必要なときに内容を確認できません。かといって、本人の了解なく親族や事業所へ配るのも違います。どこまで共有するかを本人と相談してください。

書いた後に決めること確認内容
保管場所自宅のどこに置くか、持ち出す場面はあるか
共有する相手家族、信頼できる人、主治医、ケアマネジャーなど誰に伝えるか
共有方法原本を見せる、必要なページだけ写しを渡す、話した要点を記録する
更新方法変更日と新しい希望をどう残すか
緊急時の伝達入院時に誰がノートの存在と保管場所を伝えるか

療養中の方は、ノートだけで医療上の疑問を解決しようとせず、主治医や看護師へ持参して話してください。介護サービスを利用している方は、ケアマネジャーにも本人の了解を得て共有すると、生活上の希望を支援計画へつなげやすくなります。

施設でお預かりしている場合も同じです。入居時の面談で「大切にしていること」を伺えていると、体調が変わったときの話し合いが早く進みます。ご本人が話せる状態のうちに聞けているかどうかで、その後の選択肢の幅がはっきり変わります。

ノートを入手できる場所

印刷用PDFは久留米市の公式ページからダウンロードできます。冊子は、2026年8月12日現在、次の場所に置かれています。

  • 久留米市保健所健康推進課
  • 久留米市役所長寿支援課
  • 各総合支所市民福祉課
  • 市内11か所の地域包括支援センター
  • 久留米市成年後見センター

在庫や配布方法は変わることがあります。受け取りに行く前に、久留米市のページか各窓口で現在の設置状況を確認してください。

よくある質問

親が元気なうちに話してもよいですか

元気なうちのほうが話せます。医療処置の選択から始めず、今の暮らしで大切にしていることや、信頼できる人について聞くと入りやすくなります。

全項目を一度に書く必要がありますか

ありません。話しやすい項目から進め、答えたくないところは空欄のままで構いません。本人のペースを優先してください。

一度書いた希望は変えられませんか

変えられます。体調や経験で考えが変わることを前提にした冊子です。日付を付けて見直し、家族や医療・ケア関係者へ新しい希望を伝えてください。

このノートは遺言書や治療拒否書になりますか

なりません。話し合いを助けるためのノートで、財産を扱う法的な遺言書とも、治療への同意・拒否を確定する書類とも役割が違います。

家族だけで書いてもよいですか

本人の意思を家族が推測して完成させるのは避けてください。書くことを難しく感じる方には、了解を得て言葉を確かめながら代筆し、家族の希望とは分けて記録します。

まとめ

久留米市の「私の生き方ノート」は、本人の価値観や医療・ケアへの希望を、家族や専門職と話し始めるための冊子です。2026年3月の改訂版は1冊にまとまり、今の自分、大切なこと、信頼できる人、主治医への質問、医療やケア、周囲への共有という順で考えられます。

空欄を埋める速さは関係ありません。結論を迫らず、話したくない日は待ち、希望が変わったら書き直す。書いたあとは、保管場所と共有する相手まで本人と決めておいてください。

関連ページ

公式参考情報

確認日:2026年8月12日