この記事の目次
  1. 「帰りたい」は、目の前の家を否定する言葉とは限らない
    1. 子どものころの家へ帰ろうとする
  2. 夕方に強まる理由は、本人の様子から切り分ける
    1. 一日の疲れが表に出る
    2. 光が変わり、部屋の見え方が変わる
    3. 音や会話が重なり、情報を受け取りにくくなる
    4. 昔の暮らしの時間が動き始める
    5. 体の不調が隠れている
  3. 訂正や説得が効かなかったら、会話の目的を変える
    1. 夕食を作らなければと急いでいる
  4. 家の中を整えると、夕方の負担を減らせることがある
    1. 暗くなる前に室内の見え方を整える
    2. 夕方に予定を詰め込みすぎない
    3. 役割は「できる仕事」として頼む
    4. 飲み物は、いつもの好みと体の状態に合わせる
    5. 人の出入りが多かった日の夕方
  5. うまくいかなかった対応も、次の判断材料になる
  6. 家族だけで抱えないための境目を決めておく
  7. よくある質問
    1. 「ここが家だよ」と言ってはいけませんか
    2. 一緒に外へ出ても大丈夫ですか
    3. 毎日同じ時刻なら、いつものこととして見守ってよいですか
    4. 相談すると施設入居を勧められますか
  8. 今夜の正解より、次に試せる一手を残す
    1. 出典

夕食の支度を始めたころ、親が上着を手にして玄関へ向かう。「もう帰ります。お世話になりました」。自宅にいるのに、目は本気だ。

「ここが家でしょう」と伝えても、表情は険しくなる。家族は説明が足りないのか、接し方を間違えたのかと焦り、同じやり取りを繰り返してしまう。

このとき必要なのは、言葉を直すことより、その人が今どこへ、なぜ帰ろうとしているのかを探ることだ。答えは一つに決まらず、同じ人でも日によって変わる。

「帰りたい」は、目の前の家を否定する言葉とは限らない

本人が口にする「家」は一つではない。今住んでいる家を指すとは限らず、育った実家、子育てをしていたころの家、家族が待っていた場所を思い浮かべていることがある。

探しているのは場所だけではない。認知症介護研究・研修仙台センターの『続・初めての認知症介護』は、帰宅願望を「場所と時代を探している」行動の一つとして捉えています。

本人には現実のずれがある。公益社団法人認知症の人と家族の会も、過去の暮らしの中にいる本人にとって、現在の家が他人の家のように感じられる場合を紹介している。

家族にとっては見慣れた居間でも、本人には「訪問先」に見えているかもしれない。夕方になれば、暗くなる前に自分の家へ戻ろうとする。その筋道は本人の中で通っている。

問い方を変えてみる。「ここが家なのに、なぜ分からないの」ではなく、「どこへ帰ろうとしているの」「誰か待っているの」と尋ねます。

質問を重ねて追い詰める必要はない。地名が出なくても、「帰らないと心配なんですね」と気持ちを受け取るだけで、その後の関わり方を選びやすくなる。

子どものころの家へ帰ろうとする

ここでは、対応の流れを分かりやすくするために条件を置いて考える。実在する利用者や家族の事例ではない。

自宅で暮らす母が「お母さんが待っているから帰る」と話したと仮定する。ここで事実を重ねない。家族が祖母の死を説明しても、母には突然つらい知らせを受けたように響く可能性があるからだ。

「お母さんが待っていると思うと気になりますね」と返し、いつもの湯のみを出す。まず座れるかを見る。座れたら、帰る話を無理に終わらせず、母が覚えている家の様子を聞いてみる。

落ち着かなければ、玄関から安全に離れられる用事へ誘う。役割は小さくてよい。「お茶を一緒に飲もう」「このタオルをたたむのを手伝って」と、目の前で終えられる用事を頼む方法もある。

これは成功を約束する手順ではない。母が本当に外へ向かう日は、会話より安全確保を先にする。本人の反応を見ながら、その日に合う方法を一つずつ試す。

現場にも一つの正解はありません。ただし、「ここからは帰れません」と正面から否定する対応は避けています。

言葉は短くします。「もう遅いので、朝になったら考えましょうか」「夕食を食べてからにしませんか」「お風呂の後にしましょうか」と、今できることへ誘う場合があります。外へ出たがる方と職員が一緒に短く歩き、気持ちが落ち着いた例もありました。

届いた言葉を記録します。同じ方に関わる職員で共有しますが、うまくいった方法でも、翌日に同じ反応が返るとは限りません。

夕方に強まる理由は、本人の様子から切り分ける

理由は人ごとに違う。帰宅願望が夕方に増える人はいるが、全員が同じとは限らない。認知症介護研究・研修仙台センターは、疲れ、暗くなることへの不安、昔の夕食や風呂の準備への気がかりを挙げている。

一日の疲れが表に出る

朝から人の出入りが多かった。受診や通所で移動した。家族との会話が続いた。そんな日は、夕方までに疲れがたまり、周囲の状況を受け止める負担が増えることがある。

疲れを言葉で説明できるとは限らない。「帰りたい」が、その場から離れて休みたいという訴えになっている場合もある。声量や歩く速さ、表情も一緒に見ます。

光が変わり、部屋の見え方が変わる

日が傾くと、窓の外が暗くなり、室内には影が増える。認知症介護研究・研修仙台センターは、暗くなることへの不安に対し、早めにカーテンを閉め、室内を明るめにする工夫を示している。

照明だけで落ち着くとは限らない。それでも、毎日同じ時間帯にそわそわし始めるなら、暗くなる前後で表情や動きが変わるかを見る価値がある。

音や会話が重なり、情報を受け取りにくくなる

夕食前は音が重なる。テレビ、調理、家族の会話、食器の出し入れなどだ。大府センターの令和6年度報告書は、音や光、暗がりを環境的な要因の例に挙げています。

刺激を一つ減らしてみる。本人にとって多すぎるようなら、テレビを消す、話す人を一人にするなど、受け取る情報を絞る。

無音が正解とも限らない。静かすぎると不安になる人もいる。なじみの番組や音楽が落ち着きにつながるなら、音量だけを下げる選択もある。

昔の暮らしの時間が動き始める

夕方には役割の記憶がある。長く家事を担ってきた人なら、食事を作り、家族の帰りを待つ時間だったかもしれない。仕事帰りに家へ急いだ記憶が、今の行動につながることもあります。

生活歴が手がかりになる。「帰りたい」を止める前に、かつて夕方をどう過ごしていたかを家族で思い出す。台所仕事、戸締まり、洗濯物の片づけなど、本人が担ってきた役割をたどりたい。

体の不調が隠れている

体の不調も見逃せない。大府センターの令和6年度報告書は、痛み、便秘、発熱、水分の異常などを、行動や心理の変化に関わる身体的要因の例に挙げている。

言葉以外にも表れます。腹を押さえる。立つと顔をしかめる。いつもの飲み物に手をつけない。そうした様子があれば、「帰りたい」という言葉と体の状態を切り離さずに考えます。

いつもの帰宅願望に見えても、急に強くなった、時間帯を問わず続く、食事や睡眠の様子も変わったというときは、かかりつけ医へ伝える。診断は家庭内で決めない。

訂正や説得が効かなかったら、会話の目的を変える

家族が「ここが家だよ」と答えるのは自然な反応だ。ただ、本人が別の時代や場所を感じていると、正しい説明がそのまま安心につながるとは限らない。

「実家はもうない」「今は一緒に住んでいる」と事実を重ねても、本人には知らない場所へ閉じ込められている感覚が残ることがある。会話が勝ち負けになれば、不安も反発も強まりやすい。

会話の目的を変える。「家を認識してもらう」ことではなく、「今の不安を小さくする」ことへ移す。

  • 「帰らないといけないんですね」と気持ちを言葉にする
  • どこへ帰るのか、誰が待っているのかを一度だけ尋ねる
  • 普段から飲んでいる飲み物を勧め、座れる場所へ誘う
  • 本人になじみのある片づけや食事の準備を頼む
  • 危険がなければ玄関先や近所まで一緒に歩く

飲み物や散歩は、話をそらすための仕掛けにしない。本人の「帰らなければ」という切迫感を受け取ったうえで、次の行動を一緒に選ぶ。

約束は作らない。「迎えが来る」「明日帰れる」と事実にない言葉を重ねると、後で待ち続ける不安を生むことがある。今できることを短く伝えるほうがよい。

夕食を作らなければと急いでいる

デイサービスから戻った父が、夕方になると「子どもが帰るから飯を作る」と玄関へ向かう条件を仮定する。父は昔、家族の食事を担っていたとする。

役割を取り上げない。「もう作らなくていい」では、父には仕事を妨げられたように響くかもしれない。「箸を並べるのを頼める?」と、今いる場所でできる作業へつなぐ。

その日は箸を並べて座れても、翌日は同じ言葉で怒ることがある。ならば飲み物に変える、短く外気に当たる、話す人を交代する。前日の成功を押し通さない。

本人と職員の関係性も反応を左右します。ある職員には強い言葉を向ける一方、別の職員には丁寧に接する方もいます。職員の性別だけで決めず、その方が安心できる相手へ交代することがあります。

食事と食事の間に空腹で落ち着かなくなる方には、普段の食事量や医療上の制限を確かめたうえで、コーヒーなど好みの飲み物を用意した例があります。表情が和らぎ、会話が続くようになりました。

同じ対応は当てはめません。統合失調症などの精神疾患がある方には、本人が感じている不安を受け止め、声をかける距離やタイミングを個別の支援方針に沿って調整します。

普段と異なる変化や、安全に関わる行動が見られたときは主治医などへ連絡します。薬の開始や変更は医師が判断します。

家の中を整えると、夕方の負担を減らせることがある

声かけだけで対応し続けると、本人も家族も疲れる。毎日似た時刻に始まるなら、その少し前の環境と予定を見直す。

暗くなる前に室内の見え方を整える

暗がりを先に減らす。カーテンを閉め、照明をつけ、廊下や玄関の見え方を整える。本人が動き始めてから一斉に変えるのではなく、いつもの生活の流れに組み込む。

玄関を目立たなくする工夫だけに頼ると、出口を探す行動が別の場所へ移ることもある。鍵を増やす前に、本人がなぜ玄関へ向かうのかを見る。

外へ出る危険には備えが要る。出てしまった後への備えは、認知症の徘徊が心配なとき久留米市で家族ができる対策にまとめています。

夕方に予定を詰め込みすぎない

予定を重ねすぎない。入浴、着替え、食事、服薬の声かけが続くと、何を求められているのか分かりにくくなることがある。帰りたい気持ちが強まる前に済ませるか、順番を変えてみる。

全部は変えなくてよい。家族の都合もあり、毎日静かな環境を整えるのは難しいからだ。テレビの音量、照明、話す人数など、動かしやすい一つから試す。

役割は「できる仕事」として頼む

タオルをたたむ、食卓を拭く、郵便物を一緒に見る。本人が長く続けてきた生活に近く、短時間で終えられるものを選ぶ。

採点は要らない。やり直しを求めると、頼まれた意味が薄れる。安全に関わらない範囲なら、終えたことをそのまま受け取る。

飲み物は、いつもの好みと体の状態に合わせる

器にも記憶がある。なじみの湯のみや普段の飲み物は、座るきっかけになることがある。飲み込みや水分量について医療職から指示がある人は、その内容を優先します。

帰宅願望への対処として無理に飲ませるものではない。勧めても手が伸びなければ、別の方法へ移る。

人の出入りが多かった日の夕方

負担の多い日を考える。通院と来客が重なり、夫が普段より早く上着を探し始めたと仮定する。妻は帰宅願望だけを止めようとせず、朝からの出来事が多かったことにも目を向ける。

刺激を順に減らす。テレビを消し、照明を早めにつけ、話しかける人を妻一人にする。「今日は人が多くて疲れましたね」と伝え、いつもの椅子へ誘います。

別の日は静かな環境でも歩き続けるかもしれない。記録には「効かなかった」も残す。合わない方法を早く手放す材料になる。

うまくいかなかった対応も、次の判断材料になる

昨日と今日は違う。睡眠、痛み、空腹、周囲の音、家族の声の調子が変われば、本人の受け止め方も変わる。昨日の成功が今日の正解になるとは限らない。

家族の言葉だけが原因ではない。そこに絞ると、次も「正しい声かけ」を探し続けてしまう。環境や体調も一緒に見たほうが、次の手が増えます。

短い記録があると、感情だけで振り返らずに済む。毎回長文を書く必要はない。

  • 帰りたいと言い始めた時刻と、その直前にしていたこと
  • 本人が口にした行き先や、待っていると言った相手
  • 表情、歩き方、痛がる様子、食事や睡眠の変化
  • 試した声かけや環境調整と、その後の反応
  • 外へ出ようとしたか、家族一人で安全を保てたか

記録は本人を管理するためではない。かかりつけ医、ケアマネジャー、地域包括支援センターへ、家庭で起きていることを具体的に伝えるために使う。

失敗した方法を家族の落ち度にしない。「今日は違った」と区切り、次に試す一手を残す。家族が強い口調になった日も、休む必要があるという合図になる。

家族だけで抱えないための境目を決めておく

本人を落ち着かせることに集中すると、介護する側の疲れは後回しになりやすい。玄関の前で毎夕押し問答が続く、眠れない、仕事へ行けない。そこまで来たら相談の時機です。

かかりつけ医には、診察室で落ち着いている姿だけでなく、帰宅願望が始まる時間、その前後の体調、急な変化を伝える。薬の調整を家族だけで判断しない。

予定ごと相談できます。担当のケアマネジャーには、通所や訪問を含めて夕方の過ごし方を話せる。担当者がいない場合は、住んでいる地域の地域包括支援センターが高齢者の総合相談を受けている。

相談前の整理に使えます。窓口の選び方や伝える内容は、久留米で親の介護相談はどこにする?にまとめています。

久留米市の認知症介護電話相談では、認知症の人を介護する家族の悩みや不安を、介護経験者が聞く。匿名でも相談できる。

現行の久留米市公式ページに記載された実施日時は、毎週日曜日の10時から15時までで、年末年始は除く。電話番号は0942-30-9210である。

相談では、対応の正解だけを尋ねなくてもよい。「夕方が来るのが怖い」「また怒ってしまった」と話すことも、状況を立て直す入口です。

家族同士で話せる場もある。久留米の認知症カフェとはも選択肢になる。

介護する人の眠れなさや焦りが続いている場合は、介護疲れを抱え込まないためにも参考にしてほしい。本人の安全と家族の生活は、同時に相談できます。

以前の役割が手がかりです。仕事や家庭で何を担ってきたかが、本人に届く言葉を探す助けになります。

仕事の記憶を生かします。大工だった方には「現場の確認は明日にしましょう」と伝え、税理士事務所で働いていた方には計算問題を用意した例があります。教師だった方へ「教えてください」と頼むと、落ち着いて話してくれたこともありました。

こうした情報は、職員だけでは分かりません。家族から仕事、家事、帰宅時間、得意だったことを聞き、日々の対応へつなげます。

よくある質問

「ここが家だよ」と言ってはいけませんか

一度伝えて落ち着くなら構わない。避ける言葉と決める必要はない。ただし、説明するほど不安や反発が強まるときは訂正を続けず、「帰りたいほど気になることがある」と受け止め方を変える。

一緒に外へ出ても大丈夫ですか

安全が保てることが前提です。本人が歩ける状態で、家族が付き添え、明るさや天候にも無理がなければ、短い散歩が気分転換になる場合がある。一人で見守れない、交通事故や行方不明の危険があるときは別の方法を選ぶ。

毎日同じ時刻なら、いつものこととして見守ってよいですか

同じ時刻でも、急な変化は別です。訴えが強くなった、痛がる、発熱がある、食事や睡眠の様子も変わったときは体調の確認が要る。家庭だけで原因を決めず、かかりつけ医への相談が必要です。

相談すると施設入居を勧められますか

相談は入居を決める場ではない。在宅で続けるためのサービス、夕方の予定、家族の休み方も含めて話せる。何に困り、どこまでなら家庭で続けられるかを率直に伝える。

今夜の正解より、次に試せる一手を残す

「家に帰りたい」という言葉の奥には、昔の家へ戻る感覚、果たしたい役割、疲れ、暗さへの不安、体の不調が重なっていることがある。言葉だけから原因を一つに決めない。

まず気持ちを受け取り、光や音を整え、本人になじみのある行動へ誘う。合わなければ別の方法へ移る。家族が穏やかに応じられない日があっても、それだけで介護を間違えたことにはならない。夕方を一人で支え続けない仕組みも必要です。

出典

  • 認知症介護研究・研修仙台センター『続・初めての認知症介護(徘徊・興奮暴力・帰宅願望編)解説集』(平成25年度)、https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/228/s_h25kaigokaisetsu_all.pdf(2026年8月20日確認)
  • 社会福祉法人仁至会 認知症介護研究・研修大府センター『認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドラインの活用及び普及啓発に関する調査研究事業』(令和6年度)、https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center2/250407/o_r6_report_20250319.pdf(2026年8月20日確認)
  • 公益社団法人認知症の人と家族の会『No.8-夕方になり、家に帰る!-受容することが大切』(2012年)、https://www.alzheimer.or.jp/?p=3362(2026年8月20日確認)
  • 久留米市『認知症に関する悩み…1人で抱え込まずに【相談】しましょう』(2025年更新)、https://www.city.kurume.fukuoka.jp/1070kenkou/2030koureikaigo/3024soudan/2017-0904-1804-34.html(2026年8月20日確認)
  • 国立精神・神経医療研究センター『統合失調症』、https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?%40uid=tQtLd1xVUp1wHJMQ(2026年8月21日確認)

明日、「帰りたい」と言い始めた時刻だけを一度記録してください。行動は一つです。

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