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薬の袋が増えていく。朝だけで5種類、寝る前にも3種類。数えてみて不安になった、という相談は少なくありません。
ポリファーマシーとは、多剤服用によって薬物有害事象のリスク、服薬間違い、飲み続けにくさといった問題が生じている状態を指します。薬の数だけで決まるものではありません。
介護職は「6種類以上だから減らす」と判断せず、眠気、ふらつき、食事、排泄、服用状況など生活上の変化を時刻とともに記録し、医師・看護職・薬剤師へ共有します。
薬を減らす、やめる、飲む時刻を変える判断は介護職の役割ではありません。気になる症状があっても自己判断で休薬せず、処方薬だけでなく一般用医薬品、サプリメント、残薬を含む全体像を医療職へ渡すことが出発点です。
ポリファーマシーは薬の数だけでは決まらない
厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」は、ポリファーマシーについて、単に服用する薬剤数が多いのではなく、薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態と説明しています。
何剤からとする厳密な定義はなく、治療に多くの薬が必要な人もいれば、少ない薬でも問題が起きる人がいます。
したがって、薬の数は確認項目の一つであって、減薬の結論ではありません。肝心なのは、薬が現在の病気や生活にどう関係し、本人が安全に使えているかを多職種で検討することです。
| 誤解しやすい考え方 | 実務での捉え方 |
|---|---|
| 6種類以上ならポリファーマシー | 剤数だけで確定せず、問題の有無と処方内容を見る |
| 薬が多いほど悪い | 必要な治療薬まで減らすと病状が悪化する場合がある |
| 眠気があれば薬の副作用 | 体調、睡眠、病気など他の要因もあり、介護職は断定しない |
| 残薬があれば本人が怠けている | 見え方、手指、嚥下、理解、生活時間などを確認する |
| 介護職が一回止めて様子を見る | 休薬・減量・時刻変更は医師・薬剤師へ確認する |
介護職が生活場面で見る変化
診察室では見えにくい「服用した後の暮らし」を観察できるのが介護職です。ただし記録するのは、いつ何が起きたかです。症状と薬の因果関係までは決めません。
眠気、反応、睡眠
食事中に眠り込む、呼びかけへの返答が遅い、午前中の活動に参加できない、夜間に眠れず昼間に眠るなどを見ます。「薬で眠い」と書かず、服用時刻と変化が見られた時刻を分けて残します。
ふらつき、歩行、転倒
立ち上がった直後によろける、手すりを使う回数が増えた、足がもつれる、転倒したといった事実を記録します。転倒前後の場所、動作、履物、血圧など、施設の手順で確認した情報も添えます。
食事、飲み込み、口の状態
食事量の低下、食べ始めるまでの時間、むせ、口の渇き、食物を口にためる様子などは、薬だけでなく病気や口腔・嚥下の問題を検討する手がかりになります。錠剤を砕く、剤形を変えるといった対応は介護職だけで決めません。
排泄
便秘、下痢、排尿回数、尿が出にくそうな様子、失禁の変化を確認します。「何日出ていないか」だけでなく、腹痛、食事・水分量、活動量も共有します。下剤や利尿薬などを自己判断で調整しないでください。
認知・心理面の変化
急に会話がかみ合わない、落ち着かない、いつもよりぼんやりする、幻視を思わせる言動がある場合は、言葉と行動をそのまま記録します。薬の影響と断定せず、発熱、脱水、痛み、環境変化などの情報とともに報告します。
服用時刻と症状の時刻を一本の線にする
「最近ふらつきます」だけでは、医療職は変化と薬の時間関係を検討しにくくなります。次の表のように、一日の経過をつなげて記録します。
| 時刻 | 薬・生活上の出来事 | 観察した事実 | 対応・報告 |
|---|---|---|---|
| 7時30分 | 朝食8割、朝薬を指示どおり服用 | むせなし | 服薬確認を記録 |
| 9時10分 | トイレへ移動 | 立位直後によろけ、壁に右手をついた | 椅子へ誘導、看護師へ報告 |
| 10時 | 水分提供 | 呼びかけに開眼するが返答まで約10秒 | バイタル測定は施設手順に従い実施 |
| 12時 | 昼食 | 食事中に2回、目を閉じ、摂取4割 | 看護師へ再報告、指示を記録 |
表は例であり、特定の薬による症状を示すものではありません。測っていない数値や見ていない服薬を推測で埋めず、未確認であることも情報として残します。
処方薬以外と残薬も確認する
同指針の一般用医薬品等に関する留意点は、処方薬だけでなく、一般用医薬品、漢方製剤、健康食品やサプリメントの使用状況を把握する必要性を示しています。本人が「薬ではない」と考えている商品や、複数の部屋に分かれている残薬は、医療職側の一覧に入っていないことがあります。
共有前に集めたい情報
- 現在の薬袋、処方内容、お薬手帳
- 実際に使用している一般用医薬品、点眼薬、貼付薬、塗り薬
- 漢方製剤、健康食品、サプリメント
- 複数の医療機関・診療科・薬局の名称
- 飲み残し、飲み忘れ、重複して保管している薬
- 本人や家族が中止・増減している薬の有無
- 薬を管理している人と、服用確認の方法
薬の現物を集める際は、廃棄したり、別の袋へまとめ直したりしません。薬名や使用期限、処方元が分からなくなるためです。本人の所有物を無断で持ち出さず、施設の手順と本人・家族の同意に沿って確認します。
残薬の数が合わないときも、「服薬拒否」「自己管理不能」とすぐに評価しません。包装を開けにくい、文字が読めない、食事時刻と服用条件が合わない、外出日に持参できないなど、生活上の理由を具体的に探します。
介護職から多職種へ渡す情報
厚生労働省の地域におけるポリファーマシー対策資料は、医師・歯科医師・薬剤師が処方の確認と見直しの中心的役割を担い、多職種は服薬状況の管理や服薬支援に関わると整理しています。介護職は、生活の変化を処方判断に使える形で届けます。
| 職種 | 主な役割 | 介護職から伝える情報 |
|---|---|---|
| 医師・歯科医師 | 病状と治療を踏まえ、処方を判断する | 症状、発生時刻、生活への影響、経過 |
| 薬剤師 | 薬の重複、相互作用、使用方法、残薬を確認する | 全薬剤、一般用医薬品、サプリ、残薬、服用実態 |
| 看護職 | 体調と服薬状況を評価し、医師等へつなぐ | バイタル、食事、水分、排泄、転倒、認知面の変化 |
| ケアマネジャー | 生活課題と支援体制を調整する | 管理方法、家族負担、サービス間の情報のずれ |
| 介護職 | 指示・計画に沿って支援し、変化を観察・報告する | 普段との差、本人の言葉、対応と結果 |
報告するのは事実です。「朝薬服用の約1時間半後、立位直後のよろけが3日続いた」というように伝えます。「薬を減らしてください」と結論を出す立場にはありません。本人が薬についてどう感じているか、困っていること、治療を続けたい気持ちも共有すべき情報です。
入退院・入退所の前後は情報が途切れやすい
療養場所が変わると、薬の商品名や用法が変わったように見える、入院前の薬が手元に残る、退院時の中止理由が施設へ届かないといったことがあります。厚生労働省は、入退院や療養環境の移行を処方見直しと情報共有の機会として位置づけています。
受け入れ時には、退院時処方、薬剤管理サマリー、お薬手帳、持参薬を照合し、不一致を介護職だけで解決しません。中止薬を本人が再開している、同じ成分と思われる薬が複数あるなど疑問があれば、服用前に看護職・薬剤師・処方元へ確認します。
施設から病院や在宅へ移るときは、薬の一覧だけでなく、服用できていたか、拒否や飲み残しがあったか、眠気や転倒などの変化がいつ起きたかを引き継ぎます。処方変更の理由は医療職が記載・共有する事項ですが、現場で確認できない場合は「理由不明」のまま放置せず照会します。
自己判断で減薬・休薬しない
薬をやめることで症状が改善する場合がある一方、治療が中断されて病状が悪化する危険もあります。急に中止すること自体が問題になる薬もあるため、介護職が一回抜いて様子を見ることはできません。
呼びかけへの反応低下や意識もうろう、急な呼吸困難、止まらないけいれん、けいれん後も意識が戻らない状態では、施設の緊急時手順を作動し、内部連絡と並行して119番します。
薬の服用後に、息苦しさ、唇・舌の腫れ、ぐったり、意識低下などが急に現れ、アナフィラキシーが疑われる場合も同様です。その他の副作用が疑われる変化は、医師・看護職・薬剤師へ速やかに相談し、介護職の自己判断で薬を中止・変更しません。
よくある質問
薬が6種類以上ならポリファーマシーですか
剤数だけでは決まりません。厚生労働省も厳密な剤数の定義はないとしています。薬物有害事象のリスク、服薬間違い、管理の難しさなど、処方内容と本人の状態を多職種で確認します。
眠気が出たら、次の薬を止めてもよいですか
介護職の自己判断で休薬しません。服用時刻、眠気が始まった時刻、呼びかけへの反応、食事や歩行の変化を記録し、医療職へ報告してください。
サプリメントも報告する必要がありますか
必要です。一般用医薬品、漢方製剤、健康食品、サプリメントも医療用医薬品へ影響する場合があります。商品名、使用量、頻度を薬剤師などへ共有します。
残薬が多いとき、介護職が整理して捨ててもよいですか
勝手に廃棄しません。薬名、処方元、残数、保管状況を確認し、本人・家族と施設手順に沿って薬剤師や処方元へ相談します。
処方変更後は何日観察すればよいですか
薬や病状によって異なり、一律の日数はありません。医師・薬剤師から観察項目と期間の指示を受け、変化があれば指定日を待たずに報告します。
まとめ
ポリファーマシーは、薬が多いという数だけの問題ではありません。介護職は、眠気、ふらつき、転倒、食事、嚥下、排泄、認知面、服用状況など、暮らしの中の変化を観察します。処方薬に加え、一般用医薬品、サプリメント、残薬を含めて情報を集めることも欠かせません。
記録では、服用時刻と症状が現れた時刻、普段との差、行った対応と結果を分けます。その情報を医師・看護職・薬剤師・ケアマネジャーへ渡し、処方の判断につなげます。介護職の役割は、本人の生活から見える事実を安全に医療へつなぐことです。
主な一次情報
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」
- 厚生労働省「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」
- 厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」第21回資料
- 厚生労働省「高齢者におけるポリファーマシー対策の普及啓発資材について」
- 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」
- 日本アレルギー学会「アナフィラキシー」
本記事は、2026年8月13日時点で厚生労働省が公開している総論編、各論編、地域向け資料を基準にしています。厚生労働省は2026年7月31日、現行の指針と実践資料を分かりやすく伝える新しい普及啓発資材を公開しました。
確認日:2026年8月13日



