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「財布からお金がなくなった。あなたが取ったでしょう」。認知症のある親からそう言われたとき、たいていの家族はまず否定します。それが通じないことも、やってみると分かります。
認知症の親から「お金を盗られた」と言われたら、叱ることも、証拠を突きつけて言い負かすことも避けてください。まず本人と家族の安全を確かめ、落ち着いた声で「心配ですね。
一緒に確認しましょう」と応じます。同時に、認知症による思い込みだと決めつけず、置き忘れ、実際の盗難や詐欺、経済的虐待がないかを事実に沿って調べてください。
急に疑い深くなった、話がかみ合わない、ぼんやりする、発熱や食事・水分量の低下がある場合は、体調変化やせん妄など別の原因も考える必要があります。まず、かかりつけ医または医療機関へ速やかに連絡してください。
地域包括支援センターは、受診後の生活・介護・権利擁護の相談に利用します。呼びかけへの反応が乏しい、呼吸がおかしい、けいれんがある、顔や手足の片側が動かしにくい、ろれつが回らないといった症状があれば119番です。
最初の10分で行うこと
財布や通帳が見当たらない場面では、本人は「生活を守るものが失われた」という強い不安を感じているかもしれません。家族が先に正しさを争うと、話の内容よりも「信じてもらえなかった」という気持ちが残りやすくなります。
最初にすることは、犯人探しではなく、安全の確認と事実の整理です。
| その場の状況 | 家族の対応 | 避けたい対応 |
|---|---|---|
| 本人が興奮している | 少し距離を取り、短い言葉で不安を受け止める | 大声で否定する、問い詰める |
| 財布や現金が見当たらない | 本人の了解を得て、普段置く場所から一緒に探す | 本人を外し、家中を勝手に捜索する |
| 家族が疑われている | 「私は取っていない」と一度だけ伝え、確認作業へ戻る | 長い説明で納得させようとする |
| 知らない引き出しや送金がある | 明細や日時を保存し、金融機関や警察へ相談する | 認知症による勘違いとして処理する |
| 暴力や切迫した危険がある | その場を離れて安全を確保し、緊急時は110番・119番 | 一人で押さえ込む、危険な物を奪い合う |
本人が落ち着かないときは、その場で探し続けるほど不安が強まることがあります。「少し休んでから、もう一度見ましょう」と区切るのも一つの方法です。対応を変えても激しい興奮が続く場合は、家族だけで抱え込まないでください。
「認知症だから」で終わらせず、本当にないか確かめる
財布がいつもの場所にない理由は一つではありません。別の鞄へ入れた、買い物後に上着のポケットへ入れた、家族が安全のために移したことを伝え忘れた、といった行き違いもあります。反対に、訪問販売、電話勧誘、第三者による持ち出し、家族内の金銭トラブルが隠れている可能性も否定できません。
本人と一緒に確認する順番
- 最後に財布や通帳を見た場面を、覚えている範囲で聞く
- いつもの保管場所、当日使った鞄、衣服、買い物袋を確認する
- 家族が移動させていないか、関わった人へ個別に確かめる
- 預金通帳、利用明細、領収書、ATMの利用履歴を時系列で見る
- 不審な送金や契約があれば、記録を残して関係機関へ相談する
同じ質問を何度も重ねると、取り調べのように感じさせることがあります。質問は一度に一つにし、分からないことは「分からないまま」記録します。本人の話と家族が確認できた事実を混ぜないことが大切です。
見つかったときも「ほら、あなたが忘れていただけ」と責めません。「見つかってよかったですね。次に分かりやすい場所を一緒に決めましょう」と終える方が、次の不安を小さくできます。
強く否定しても解決しにくい理由
国立長寿医療研究センターの「認知症はじめの一歩」は、身の回りの物が盗られたと訴える場合、頭から否定せず、一緒に探すなど気持ちに寄り添う対応を紹介しています。
ただし、家族が「もの盗られ妄想」と診断することはできません。同じ言葉が出ても、認知機能、視力や聴力、体調、薬、生活環境、人間関係など背景は人によって違います。
厚生労働省の「認知症の人と接するときの心がまえ」も、認知症の人は何も分からない人ではなく、本人自身が不安や苦しさを抱えていることを踏まえた接し方を示しています。話のつじつまを直すことだけに集中せず、何を怖がっているのか、生活のどこで困っているのかを見ます。
言い換えの例
| 避けたい言葉 | 代わりに伝えたい言葉 |
|---|---|
| 「またなくしただけでしょう」 | 「見当たらないと心配ですね」 |
| 「私が盗るわけないでしょう」 | 「私は取っていません。一緒に確認しましょう」 |
| 「何回説明すれば分かるの」 | 「今分かっていることを、もう一度整理しますね」 |
| 「認知症だから仕方ない」 | 「いつ、どんなときに心配になるか記録して相談しましょう」 |
家族が怒りを感じること自体は珍しくありません。疑われ続けてつらいときは、その場を別の家族や支援者に交代し、家族自身が休める時間を確保します。無理に穏やかさを演じ続けるより、関係が壊れる前に支援を増やす方が現実的です。
急な変化は医療職へつなぐ
以前にはなかった疑いが数時間から数日で急に始まった場合や、一日の中で受け答えが大きく変わる場合は、認知症の進行だけとは限りません。
感染、脱水、痛み、便秘、排尿の問題、睡眠不足、薬の開始・変更などが重なり、せん妄を起こしている可能性もあります。家族が原因を決めるのではなく、普段との違いを医療職へ伝えます。
次の変化があれば、かかりつけ医や医療機関へ早めに連絡してください。意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が乏しい、けいれん、呼吸の異常、片側の手足が動かしにくいなど緊急性が疑われる場合は119番です。
| 医療職へ伝える項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 始まった時期 | 何月何日、何時ごろから変わったか |
| 普段との違い | 会話、眠気、興奮、歩行、食事、水分、排泄 |
| 体調 | 発熱、痛み、咳、嘔吐、転倒など |
| 薬 | 最近始まった薬、変更・中止、飲み忘れの有無 |
| 金銭の事実 | なくなった物、金額、最後に確認した日時、明細 |
家の中の工夫は本人と決める
再発を防ごうとして、家族が通帳や現金をすべて取り上げると、本人の不安や不信感が強くなることがあります。金銭管理の力や被害リスクを確認しつつ、本人の意思と日常の自由を残せる方法を一緒に考えます。
- 日常に使う小額と、保管するお金を分ける
- 財布、鍵、通帳の置き場所を本人と決め、目印を付ける
- 家族が移動させたときは、一つの連絡ノートへ残す
- 支払いを代行した場合は、金額と目的、領収書を共有する
- 不審な電話や訪問があった日時を記録する
これらは一例であり、全員に合う方法ではありません。本人が管理できる範囲、同居状況、第三者の出入り、家族関係によって調整します。金銭の管理をめぐって家族内で意見が割れる場合は、地域包括支援センターの権利擁護相談を利用できます。
久留米市で相談するときの順番
久留米市は、市内11か所の地域包括支援センターを、高齢者の介護、健康、虐待防止、権利擁護などの総合相談窓口として案内しています。担当センターは校区によって異なるため、市公式の一覧で確認してください。利用時間は平日8時30分から17時15分、相談料は無料と案内されています。
| 困っていること | 主な相談先 |
|---|---|
| 急な言動の変化、発熱、意識の変化 | かかりつけ医、医療機関、緊急時は119番 |
| 認知症が疑われるが受診・介護につながっていない | 担当の地域包括支援センター |
| 介護サービス利用中の生活上の変化 | 担当ケアマネジャーと主治医 |
| 虐待や金銭管理を含む権利擁護の心配 | 地域包括支援センター、久留米市長寿支援課 |
| 実際の盗難・詐欺が疑われる | 緊急時は110番、緊急でない警察相談は#9110 |
久留米市の認知症初期集中支援チームは、認知症が疑われる人や認知症の人で、医療・介護サービスにつながっていない場合などを対象に、専門職が訪問して支援を検討する仕組みです。家族がチームへ直接診断を依頼する制度ではありません。まず認知症の相談窓口や担当の地域包括支援センターへ連絡します。
よくある質問
「盗っていない」と伝えてはいけませんか
事実として一度、落ち着いて伝えることまで避ける必要はありません。ただし、長い説明や反論を繰り返して言い負かそうとせず、「一緒に確認する」行動へ移ります。
見つかった財布を見せれば納得しますか
見つかって安心する人もいますが、疑いが続くこともあります。本人を責めず、見つかった場所と次の保管方法を共有してください。繰り返す場合は経過を記録して相談します。
家族が通帳を預かってもよいですか
一律には決められません。被害を防ぐ必要性と本人の意思・生活上の自由を両方考えます。家族だけで決めにくい場合は、地域包括支援センターへ権利擁護の相談をしてください。
急に疑い深くなったのは認知症が進んだからですか
急な変化は体調不良やせん妄などでも起こり得ます。発症時刻、発熱、食事、水分、排泄、薬の変更などを記録し、医療職へ相談してください。
実際の盗難か思い込みか分からないときはどうしますか
最初からどちらかに決めず、明細、領収書、保管場所、関わった人を確認します。不審な出金や第三者の関与があれば記録を保存し、金融機関や警察へ相談してください。
まとめ
「お金を盗られた」と言われたとき、叱ったり言い負かしたりしても不安は解けません。まず安全を確保し、本人の心配を受け止め、一緒に事実を確認します。認知症による言動と決めつけず、実際の紛失、盗難、詐欺、経済的虐待を見落とさない視点も必要です。
急に始まった変化や体調不良があれば医療職へ、生活・介護・権利擁護の心配は担当の地域包括支援センターへつなぎます。疑われる家族の負担も相談してよい問題です。一人で耐え続けず、記録を手に支援者へ話してください。
主な一次情報
- 厚生労働省「認知症の人と接するときの心がまえ」
- 国立長寿医療研究センター「認知症の人と上手に向き合うために」
- 国立長寿医療研究センター「認知症はじめの一歩」
- 久留米市「認知症の人やその家族への支援」
- 久留米市「地域包括支援センターとは」
- 久留米市「認知症初期集中支援チームについて」
- 福岡県警察「夜間・休日における警察相談電話等の運用変更」
- 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」
確認日:2026年8月13日



