この記事の目次
久しぶりに実家へ行くと、廊下の新聞、居間の充電コード、玄関に増えた靴が目に入った。親は「いつもの家だから大丈夫」と言う。家族には、その「いつも」が安全かを確かめる役割があります。
厚生労働省の2025年調査では、介護が必要になった主な原因のうち「骨折・転倒」は総数の14.6%で3番目でした。要介護者に限ると14.8%で2番目です。
出典: 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 IV 介護の状況」 URL: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/05.pdf(2026年8月20日確認)
自宅も点検対象です。消費者庁が医療機関から集めた事故情報では、65歳以上の転倒事故の48%が自宅で起きていました。これは発生率を示す統計ではありません。
出典: 消費者庁「10月10日は『転倒予防の日』、高齢者の転倒事故に注意しましょう!」
URL: https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_040/assets/consumer_safety_cms204_201008_01.pdf(2026年8月20日確認)
転倒のきっかけは、足腰の変化だけとは限りません。床にある物、段差、暗さ、履物、立ち上がる場所、薬の影響が重なることがあります。対策後も転ぶ可能性は残ります。
玄関から歩きます。普段の生活動線に沿って寝室まで進む。費用をかける前に、物をどける、明かりを確保する、履物を見直すという小さな変更から試せます。
玄関 靴を脱いで向きを変える所まで見る
玄関は、上がりかまちだけを見ても足りません。扉を開け、荷物を置き、靴を脱ぎ、体の向きを変えて室内へ上がる。その一連の動きに、足を取られる物や不安定な支えがないかを見る場面です。
まず一足だけ残します。靴、傘、宅配物、古新聞が通り道へ出ていると、足を置ける場所が狭くなるからです。床を広く空けます。
端のめくれを見ます。玄関マットは、裏面が滑りにくくても動く場合があります。本人のつま先が触れないか、靴を履く動作でずれないかを実際に見ます。
椅子は動かないことが前提です。玄関の幅を狭めない位置へ置く。靴箱の扉や折り畳み椅子を手すり代わりにすると危険です。
かかとのないスリッパ、足より大きい履物、底がすり減った靴は、脱げたり滑ったりしやすくなります。本人が普段どの履物で家の中を歩くかまで確認します。
いつもの動きを見せてもらいます。「大丈夫」という言葉だけで安全とも危険とも決めません。本人がよける場所、手を置く場所、立ち止まる場所が見えてきます。
靴を避けるため横向きになっていた
説明のために条件を置いた例です。親は段差を問題なく上がれると言っていましたが、床に並ぶ靴を避けるため、片足を段差に置いたまま横向きに体をひねっていました。
この場合、最初の対応は大きな工事ではありません。靴を片づけ、正面を向いたまま上がれる幅を作り、夕方にも足元が見えるかを確かめます。
相談の目安があります。段差で毎回ふらつく。壁や靴箱に強くつかまる。家族が体を支えないと上がれない。こうした状態なら、手すりや段差への対応を相談する時期です。
工事前の確認があります。久留米で手すり設置を考える家族向けの記事では、介護保険の住宅改修を使う前に見たい点を扱っています。
廊下・居間 通る幅と床に増えた物を確かめる
廊下は通路、居間は生活の中心です。別の場所に見えても、実際には玄関から椅子、椅子から台所、居間からトイレへと一本の動線でつながっています。
見るのは足が通る線です。部屋の整頓具合ではありません。壁際が片づいていても、中央に延長コードや座布団があれば、歩くたびによける動作が生まれる配置です。
床の物がきっかけになります。消費者庁の資料では、電源コード、カーペット、こたつ、座布団に引っ掛かる事故や、新聞紙、段ボールに乗って滑る事例が挙げられています。
最初に、床を横切るコードをなくします。家電の位置を変えられない場合も、配線を壁側へまとめ、歩く線と交差しないかを本人の足元から見直します。
敷物には二つの見方があります。滑るか。端につまずくか。小さなマットを何枚も重ねると境目が増えるため、使う理由が薄いものから外す方が安全です。
最初の一歩を見ます。低いテーブルや足置きは、座っていると便利でも、立った直後の空間を狭めることがあります。家具を動かすときは、本人が覚えている配置を急に変えず、一緒に新しい動線を歩きます。
夜の見え方は別です。昼間に明るい廊下でも、夕方は物の影が段差のように見えることがあります。照明をつけた状態と消した状態の両方で、曲がり角や部屋の入口を見ます。
環境だけが原因とは限りません。急にふらつくようになった、片側に力が入りにくい、立てないといった変化は、医療機関や救急相談につなげます。
昼と夜で通り道が変わっていた
説明のために条件を置いた例です。昼間はコードをまたいで居間を出ていましたが、夜は暗さを避けて壁側を歩き、積んだ新聞紙の近くを通っていました。
家族は昼の動線しか見ていませんでした。新聞紙を床から上げ、充電場所を変え、夜の照明で再び歩くと、時間帯によって危険が変わることを確認できます。
写真だけでは動きが見えません。離れて暮らす家族には、一人暮らしの親を見守る方法も、連絡方法や相談先を決める材料になります。
降りやすい側を見ます。施設では、片麻痺のある方がベッドから降りる動きに合わせ、向きを見直すことがあります。向きは麻痺の側だけで決めず、本人の動作について専門職との確認が必要です。
車いすや歩行器を使う方の動線には、物を置きません。H型の据え置き手すりへ洗濯物を掛けていた場合は、手すりを使う妨げになることを説明し、衣類をクローゼットやたんすへ移します。
階段 上りより下りと最後の一段を見る
階段は段数だけで判断しません。上り口、曲がり角、踊り場、下りた直後まで歩き、どこで手を離すか、足元が陰にならないかを見ます。
階段は収納場所ではありません。箱や洗濯物を仮置きすると、足の置き場が減ります。手すりを使う側の物は、持ち替えの原因です。
影も危険になります。電球が切れていなくても、本人の体で足元が暗くなる場合があります。階段の上と下から見て、段の端が分かるか、最後の一段を床と見間違えないかを見ます。
設置後も点検が要ります。消費者庁は、段差や階段、玄関への手すり・滑り止め、足元灯を対策として挙げています。滑り止めの剥がれや浮きが、新たな引っ掛かりになるためです。
手すりを使う手は空けます。洗濯物や食器を持つと、足元も見えにくくなるからです。運ぶ量を減らす、家族が別に運ぶ、生活場所を同じ階へ寄せる方法から考えます。
手すりは人と家に合わせます。高さや位置、段差解消の方法は、本人の体格や動き、住宅の構造で変わるからです。家具を固定せず支えにする、自己流で付ける対応は避け、専門職へ相談します。
寝起きは動きが不安定です。転倒やベッドからの転落は、覚醒が十分でない早朝や夜間に起こることがあります。自分で照明を操作しにくい方は廊下側の明かりを残し、暗くないと眠れない方には足元灯を使うなど、本人に合わせた調整が必要です。
見守りにも配慮が要ります。転倒リスクが高い方には、家族と相談し、プライバシーに配慮して離床センサーを使う場合があります。起きやすい時間を記録し、その前後に巡視する方法も取っています。
浴室・トイレ 濡れた床と体の向きを変える動作を見る
狭い場所で動作が続きます。浴室とトイレでは、立つ、向きを変える、衣類を上げ下げする。床だけでなく、手を伸ばす先と、急ぐ理由まで見ます。
浴室は入る前から出た後まで
入る前から見ます。脱衣所のマット、浴室の石けんや水分、浴槽をまたぐときに手を置く場所が対象です。
浴室は事故報告の多い場所です。消費者庁は、浴室・脱衣所をその一つに挙げ、浴室内の滑り止めマットを対策として案内しています。
敷いた後も見ます。滑り止め用品が浴室用か、床との相性は合うか、使用中にずれないか。端の浮き、石けんかす、劣化も点検します。
つかまる場所を見ます。浴槽の縁、蛇口、タオル掛けは、体重を支える目的で作られていないことがあります。不安定な場所なら、入浴方法は専門職への相談対象です。
腕だけで引きません。本人と家族が同時にバランスを崩すことがあるからです。体の動かし方を独自に決めず、ケアマネジャーやリハビリ専門職へ動作を見てもらいます。
トイレは便座までの最後の数歩
入口から片づけます。段差やマットがあると、急いでいるときに足が触れるからです。掃除道具、ごみ箱、予備の紙も足元から外します。
向きを変える幅が要ります。狭いと、壁やドアノブへ手を伸ばしやすくなります。立ち上がった直後に衣類を整えるのか、姿勢が安定してから動くのか、普段から見るべき順番です。
夜は眠気も重なります。足元灯はまぶしさで目がくらまない位置へ置く。寝床から便座まで、照明が途中で切れないようにします。
手すりだけが答えではありません。本人の動作と介助方法を一緒に評価します。福祉用具は、購入か貸与か、介護保険の対象かも確認が要ります。
選定までの流れがあります。久留米で介護用品をレンタルする際の確認点で紹介した記事です。
寝室 起き上がる側と最初の一歩を整える
寝室では、寝具の周りが整っていても、起き上がる側に荷物、コード、履物が集まっていることがあります。枕元からドアまで、本人が使う側を起点に見ます。
起きた直後が要点です。立ち上がりと歩き出しが連続するからです。眼鏡、杖、歩行器、照明のスイッチが無理なく手に届くかを見ます。
履物は左右をそろえ、毎回同じ場所へ置きます。暗い中で探す、片足だけ履く、遠くへ足を伸ばす動作を減らせます。滑りやすい靴下も点検項目です。
高さに一つの正解はありません。足裏が床につくか。立つときに勢いが要るか。座ると後ろへ倒れ込みそうか。本人の動きから相談します。
家具は動くことがあります。つかまる場所が必要なら、安定性を確かめた福祉用具や住宅設備を専門職と選びます。
薬を変えた時期とふらつきの始まりを並べる
薬も確認材料です。家の中を片づけても、眠気やふらつきが続く場合があります。一部の降圧薬、睡眠薬、抗不安薬などを、ふらつき・転倒と関係し得る薬として挙げた厚生労働省の指針です。
出典: 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」 URL: https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/kourei-tekisei_web.pdf(2026年8月20日確認)
薬だけで原因とは決めません。始めた日、量が変わった日、ふらついた時間帯をメモし、処方した医師や薬剤師へ伝えます。
自己判断で変えないでください。睡眠薬や降圧薬も、病気の治療に必要な場合があります。変更は医師・薬剤師との確認が前提です。
薬の変更後から朝だけふらついた
説明のために条件を置いた例です。居間と廊下を片づけても、親は朝の起床後だけ壁へ手をついていました。家族が確認すると、薬の変更とふらつきの始まりが近い時期でした。
この情報だけで薬が原因とは判断できません。飲んだ時刻、起きた時刻、本人の様子を記録し、家族が薬を止めずに処方医へ相談します。
歩き方以外も材料です。食欲の低下や体重の変化が重なる場合は、かかりつけ医へ伝えます。高齢者の食事と栄養では、家族が食事で見たい点を整理しています。
用具は固定ではありません。状態が変わるたびにケアマネジャーや福祉用具専門相談員と見直します。車いすを使っていた方が、リハビリを続けて歩行器へ移行した例もありました。
支えを増やす場合もあります。独歩から杖、歩行器、車いすへ移る経過です。種類の名称だけで選ばず、体格、握力、姿勢、住環境、介助方法を見ます。
適切な用具は移動の可能性を広げることがありますが、ADLやQOLの改善を保証するものではありません。導入後も、使い方と体の変化を確かめます。
転んだ後 起こす前に反応と打った場所を確かめる
まず起こさないことです。呼びかけへの反応、呼吸、出血、強く痛む場所、頭を打ったかを見る。痛みが強い、変形がある、立てない場合は、無理に歩かせません。
反応がなければ緊急です。直ちに119番通報とAEDの手配を行います。普段どおりの呼吸がない、または判断できない場合は、通信指令員の指示を受けながら胸骨圧迫を始める。意識がもうろうとしている、けいれんが続く、頭を打った後に反応や意識が変化した場合も119番通報します。
突然の症状も対象です。総務省消防庁の高齢者向け資料は、激しい頭痛や急にふらついて立てない状態も、直ちに119番通報する症状として挙げています。
出典: 総務省消防庁「救急車利用リーフレット 高齢者版」 URL: https://www.fdma.go.jp/publication/portal/items/portal009_kourei.pdf(2026年8月20日確認)
後から変わることがあります。頭を打った直後に会話ができても安心とは限りません。消費者庁は、直後に異常がなくても経過を見て、普段と違う様子があれば医師の診察を受けるよう案内しています。
時刻を残しておきます。受診や相談では、見ていた人、打った場所、意識の変化、服用中の薬も伝える。迷うときは、地域の救急相談窓口や「Q助」も判断を補う手段です。
記憶だけには頼りません。本人が一人で転んだ可能性があるときは、床の物の位置や傷、腫れを見る。同じ場所で繰り返すなら、体調と環境の両方を医療・介護の相談先へ伝えます。
家の中を歩いて確認するチェックリスト
- [ ] 玄関の靴、傘、荷物を動線から外した
- [ ] 玄関マットのめくれと滑り、履物の脱げやすさを見た
- [ ] 廊下と居間でコード、新聞紙、座布団、敷物を避けずに歩ける
- [ ] 本人と一緒に昼と夜の動線を歩いた
- [ ] 部屋の入口、曲がり角、段差、階段の端が明るく見える
- [ ] 階段に物を置かず、手すりを使う手が空いている
- [ ] 浴室の水分、石けん、滑り止め用品のずれを見た
- [ ] トイレの入口と便座の周りから物を外した
- [ ] 寝床から照明、履物、杖などへ無理なく手が届く
- [ ] 立ち上がりや歩き方が変わった時期を記録した
- [ ] 薬の開始・変更後のふらつきは、自己中止せず医師・薬剤師へ相談する
- [ ] 転倒後に119番や受診を考える症状を家族で共有した
- [ ] 片づけだけで足りない場所は、住宅改修や福祉用具を専門職へ相談する
明日、本人と玄関から居間までを一度だけ歩いてください。やることは一つです。
介護施設・老人ホームについてご相談ください
親御さんの暮らしや施設選びについて、現在の状況とご希望を伺いながら選択肢を整理します。



