福岡・久留米で認知症ケアからアパート管理まで担う介護と不動産の専門家

【2025年最新】後見・信託から公的融資まで|財産管理と権利擁護の全制度マップ

【序章】あなたの不安に寄り添う「財産管理の地図」が、ここにあります

「親の預金が、突然おろせなくなった…」

「実家を売りたいのに、手続きがまったく進まない…」

「必要な介護サービスを受けたいのに、契約ができない…」

愛する家族の「判断する力」に衰えが見え始めたとき、私たちの前には、あまりにも高く、険しい「法律と制度の崖」が立ちはだかります。

長年、介護事業の経営に携わる中で、この崖の前でたった一人、途方に暮れるご家族を数えきれないほど見てきました。

もし今、あなたの頭の中が不安で真っ白になっていたとしても、それは当然のことです。どうかご自身を責めないでください。これは、誰にでも起こりうることなのです。

  • 認知症の親が遺産分割協議に参加できず、相続手続きが完全にストップしてしまう。
  • 親が経営するアパートの判断ができなくなり、修繕もできず家賃収入が途絶える
  • 受け取れるはずの生命保険金が、本人でなければ手続きできず塩漬けになる

これらの悲劇は、決して他人事ではありません。そして、多くの方が直面するのが、「たった一つの制度だけでは、家族を守りきれない」という厳しい現実です。

日本の社会には、一人の人間を守るために、実に多くのセーフティネットが用意されています。成年後見制度家族信託公的な融資制度消費者保護の法律…。しかし、それらはまるで複雑なパズルのピースのように散らばっており、どれを組み合わせれば良いのか分からないのが実情です。

この記事は、そのパズルのピースを一つひとつ丁寧に解説し、あなたのご家族のためだけの「最高のお守り」を作るための設計図です。崖からあなたとご家族を守る「命綱」であり、安全な下り方を示す、究極の実践的な取扱説明書(トリセツ)として、どこよりも深く、そして温かく、お金と権利の問題を解き明かしていきます。


【第1部】意思能力を支える車の両輪 – 後見と信託の使い分け

本人の「判断する力」の状態によって、選ぶべき中心的な制度は変わります。ここでは、その二大巨頭である「後見」と「信託」について、それぞれの役割と違いを徹底的に解説します。


【第1章】法定後見制度|親の預金凍結・不動産問題を解決する国の公式サポート

《こんなお悩みはありませんか?》

☑ 認知症の親の預金が銀行に凍結され、介護費用が引き出せない。

☑ 相続が発生したが、相続人の一人が認知症で遺産分割協議ができない。

☑ 親が悪質な訪問販売に騙されて、高額な契約をしてしまった。

◆ひとことで言うと?

すでに判断能力が衰えてしまった方のために、家庭裁判所が公式なサポート役(後見人・保佐人・補助人)を選んでくれる制度です。国が認めたお守り役が、本人に代わって財産を守り、必要な契約を行います。

「裁判所」と聞くと、何か罰せられるような、冷たいイメージを持つかもしれません。ですが、これは全く違います。法定後見は、大切な家族を法的なトラブルから守るための「鎧」を着せてあげる手続きだと考えてください。

◆3つのレベルの「お守り」

本人の状態に合わせて、3つのレベルの支援が用意されています。

レベル名称例えるなら…主な役割
レベル1補助(ほじょ)車の車庫入れだけ手伝う不動産売却など特に重要な行為に同意する
レベル2保佐(ほさ)大きな買い物の相談に乗る法律で定められた重要な行為に同意する
レベル3後見(こうけん)目的地まで完全にナビゲート日常の金銭管理から契約まで包括的に支援

そして、これらの公式な支援者には「取消権(とりけしけん)」という強力な武器が与えられます。これは、本人が不利な契約を結んでしまった際に、後から「この契約は無効です!」と宣言できるスーパーパワーです。

◆申立てから開始までの流れ・期間・費用

申立ては、ご家族にとって精神的にも時間的にも負担がかかる手続きです。ですが、一つひとつ進めていけば、必ずゴールは見えてきます。

【手続きの流れと期間の目安】

平均して2~4ヶ月かかりますが、事案によっては半年以上かかることもあります。

  1. 申立て準備(約1ヶ月~):必要書類(戸籍謄本、住民票、財産目録、収支報告書、医師の診断書など)を収集します。
  2. 家庭裁判所への申立て:本人の住所地を管轄する家庭裁判所に書類一式を提出。
  3. 裁判所による調査(約1~3ヶ月):裁判所の調査官が、申立人や本人と面談します。
  4. (必要に応じて)精神鑑定:医師が本人の判断能力を詳しく調べます。別途5~20万円程度の費用と、1~2ヶ月の期間がかかります。
  5. 審判・確定:裁判官が後見人などを決定。審判が確定すれば、正式に活動を開始できます。

【費用の内訳(目安)】

項目目安金額備考
申立手数料(収入印紙)800円後見の場合
連絡用郵便切手3,000円~5,000円裁判所により異なる
登記手数料(収入印紙)2,600円法務局への登記費用
診断書作成費用5,000円~2万円病院により異なる
(鑑定費用)5万円~20万円実施される場合のみ
(専門家への依頼費用)15万円~30万円以上司法書士や弁護士に申立を依頼する場合

◆後見人の報酬と責任

弁護士などの専門職が後見人になった場合、本人の財産から報酬が支払われます。これは家庭裁判所が決定するもので、後見人が勝手に決めることはありません。

  • 基本報酬の目安(月額):管理財産額に応じて月額2万円~6万円程度。
  • 付加報酬:不動産売却など特別な業務を行った場合に、基本報酬に上乗せされます。

これは、財産を安全に管理してもらうための「保険料」のようなものです。後見人には「善管注意義務」という、自分の財産以上に注意深く管理する重い責任が課せられており、裁判所の厳しい監督下に置かれます。


【第2章】任意後見制度|元気なうちに結ぶ「未来への応援契約」

《こんな方に最適です》

☑ 今は元気だが、将来の判断能力の低下に備えておきたい。

☑ 自分の財産管理や介護の方針は、自分で決めておきたい。

☑ 信頼できる子どもや兄弟に、将来のことを託したい。

◆ひとことで言うと?

まだ元気で判断能力がしっかりしているうちに、「将来もし私が弱ったら、あなたが応援団長になってね」と、自分で信頼できる応援団長(任意後見人)を指名しておく予約契約です。

これは、完全にオーダーメイドで「誰に」「何を」任せるかを決められるのが最大の魅力です。契約は、公証役場で「公正証書」という信頼性の高い公式文書で作成します。

◆契約の心臓部 – 「代理権目録」で未来を設計する

任意後見で何を任せるかは、契約書の「代理権目録(だいりけんもくろく)」に具体的に書き込むことで決まります。

  • 財産管理:預貯金の管理、不動産の管理・処分、保険金の受領など。
  • 身上監護:介護サービスの契約、要介護認定の申請、入院手続きなど。

これらの条項を、自分の人生設計に合わせてパズルのように組み合わせ、「どこまで任せるか」「何を任せないか」を明確にすることが、将来の安心とトラブル防止の鍵となります。

◆任意後見にかかる費用

任意後見は、「契約時」と「発動後」の2段階で費用が発生します。

段階項目目安金額備考
契約時公証人手数料など約5万円契約内容により変動
専門家への依頼費用5万円~20万円契約書作成を依頼する場合
発動後任意後見監督人への報酬月額1万円~3万円裁判所が決定
任意後見人への報酬月額2万円~6万円契約で定めた場合。親族なら無報酬も可

【第3章】家族信託|資産承継に強い「オーダーメイドの金庫番」

《こんな課題を解決できます》

☑ 親が認知症になった後も、アパート経営や資産運用を続けたい。

☑ 自分が亡くなった後、障がいのある子の生活を生涯にわたって支えたい。

☑ 不動産が共有名義になるのを防ぎ、スムーズに事業承継したい。

◆ひとことで言うと?

「この財産(不動産や預金)を、この目的(私の生活費や孫の学費)のために、信頼するあなた(息子など)が管理・運用してね」と、特定の財産に特化した管理を任せるオーダーメイドの契約です。

後見制度との一番の違いは、財産管理に特化しており、柔軟で積極的な財産管理・承継に絶大な強みを発揮する点です。ただし、介護施設の契約といった生活全般のサポート(身上監護)や取消権はありません

◆メリットと、その裏側にあるデメリット

家族信託は非常に強力なツールですが、良いことばかりではありません。高額な費用と専門知識が必要という現実も、しっかりお伝えします。

【メリット】

  • 財産凍結の完全回避:本人の判断能力に関わらず、受託者がスムーズに財産を管理・処分できる。
  • 柔軟な資産承継:「二次相続(自分が死んだ後、配偶者が亡くなったら子へ)」など、遺言では不可能な承継先を指定できる。
  • 事業承承の切り札:後継者へスムーズに議決権を移譲できる。

【デメリット・注意点】

  • 高額な専門家費用:コンサルティング料だけで最低でも30万円~100万円以上かかることが一般的。
  • 身上監護はできない:あくまで財産管理の仕組み。介護契約などは別途、後見制度などと組み合わせる必要がある。
  • 税務リスク:設計を間違えると、高額な贈与税がかかる可能性がある。
  • 【最重要】小規模宅地等の特例が使えない可能性:自宅を信託すると、相続税が大幅に安くなる特例が使えなくなるリスクがあります。必ず、信託と相続税に詳しい税理士に相談してください。

【第2部】目的別に使い分ける!多様なサポート制度

後見や信託以外にも、あなたの悩みに応えてくれる制度はたくさんあります。


【第4章】日常生活や契約を支える身近な制度

◆お金の管理が少し不安なら → 日常生活自立支援事業(後見制度への優しい架け橋)

「年金の引き出しや、公共料金の支払いをうっかり忘れそう…」。そんな時に、お近くの市区町村社会福祉協議会が、金銭管理を優しくお手伝いしてくれるサービスです。

  • 強み:後見制度よりずっと気軽に、低料金(1回1,000円程度~)で利用できる。
  • 弱み:本人の判断能力がしっかりしていることが前提。本格的なサポートが必要になったら、後見制度への移行を検討しましょう。

◆不利な契約を結んでしまったら → 消費者ホットライン「188」(あなたの最後の砦)

悪質な契約トラブルに巻き込まれたら、絶対に一人で悩まないでください。

  • クーリング・オフ:訪問販売などで契約しても8日以内なら無条件で解約可能。
  • 消費者契約法:ウソの説明など不当な勧誘による契約は取り消し可能。

困ったら、ためらわずに電話番号「188(いやや!)」へ。あなたの町の消費生活センターにつながり、専門家が無料で相談に乗ってくれます。


【第5章】生活資金を確保するための公的制度

◆自宅はあるけど生活費が足りないなら → 不動産担保型生活資金

持ち家を担保に、国(社会福祉協議会)から生活費を借り入れる公的なリバースモーゲージ制度です。低所得の高齢者世帯が対象で、民間のものより福祉的な性格が強いのが特徴です。

◆絶対に手を出してはいけない「年金担保」の罠

「年金担保貸付制度」は令和4年3月末に完全に廃止されました。今「年金を担保に融資します」と謳う業者は100%違法なヤミ金融業者です。甘い言葉に絶対に乗らないでください。


【第3部】権利擁護と密接に関わる「相続」と「税金」の知識

権利擁護の問題は、避けて通れない「相続」と「税金」の問題に必ず直結します。

【第7章】認知症と遺産分割協議 – 相続が「凍結」する恐怖

相続人の一人が認知症だと、その人が参加した遺産分割協議は無効となり、預金解約も不動産売却もできなくなります。この「相続の凍結」を解決するには、法定後見人を選任するしかありません。

良かれと思って家族が後見人になっても、遺産分割では利害が対立する「利益相反」となり、結局は弁護士などの「特別代理人」が必要になることも。だからこそ、法律は公平な第三者を求めるのです。生前の対策がいかに重要か、お分かりいただけると思います。

【第8章】認知症と遺言の有効性 – 「争続」を生まないための鉄則

後の紛争を防ぐため、遺言は必ず以下の2点セットで準備してください。

  1. 公正証書遺言にする(必須):公証人が本人の意思能力を確認するため、証明力が格段に高い。
  2. 医師の診断書を添付する(強力な証拠):遺言作成と同じ日に、「遺言能力に問題なし」との診断書をもらい、セットで保管する。

【第4部】制度の狭間で生まれるリアルな課題と超実践的対策

教科書には載っていない、現場のリアルな課題と、その乗り越え方をお伝えします。

【第9章】親のプライド問題 – 「説得」から「チーム作り」へ

「親が『まだ大丈夫』と拒否する」。これが一番難しい問題です。

この場合の発想を転換しましょう。「どうすれば親を説得できるか?」ではなく、「どうすれば親が安心して任せられるチームを作れるか?」と考えるのです。

かかりつけ医、ケアマネージャー、民生委員など、本人が信頼する第三者を巻き込み、「お父さん(お母さん)を守るためのチーム」を結成するのです。主役はあくまで本人。ご家族は、そのチームを支えるサポーター役に徹することで、本人のプライドを傷つけずに、自然な形で支援の輪を広げることができます。

【第11章】後見制度と医療同意 – 法律と現場の狭間

後見人には、延命治療の中止など医療行為への同意権はありません。これは法律の限界です。だからこそ、私たちが元気なうちにできることがあります。それは「事前指示書(リビングウィル)」で、自分の最期の迎え方について意思表示をしておくこと。それが、残された家族と医療者を助け、自らの尊厳を守る、何よりの贈り物になるのです。


【終章】知識の地図を手に、今すぐ行動するための「はじめの一歩」

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。情報量の多さに圧倒されたかもしれません。でも、大丈夫。すべてを一度に理解する必要はありません。

Step 0:まずは、深呼吸。

焦りは最大の敵です。まずはこのページをブックマークして、いつでも見返せるようにしてください。そして、「一人じゃないんだ」と感じていただけたら、それが私たちの願いです。

Step 1:あなたの街の「相談窓口」の電話番号を登録しよう。

次に、スマートフォンの電話帳に、この番号を登録してください。

お住まいの市区町村の「地域包括支援センター」です。

これは、高齢者の生活に関するあらゆる相談に乗ってくれる、公的な「よろず相談所」。例えば、ここ久留米市にお住まいなら「久留米市 高齢者支援課」や「お近くの地域包括支援センター」で検索すれば、すぐに見つかります。

電話をかけて「親の財産管理や権利擁護のことで相談したいのですが…」と伝えるだけで大丈夫。うまく話せなくても、専門家が優しく話を聞き、次に何をすべきかを一緒に考えてくれます。

Step 2:家族で話す「きっかけ」を作る。

「もしも」の話は、切り出しにくいものです。そんな時は、このブログ記事を家族LINEに送ったり、印刷して渡したりして、「こんな記事があったんだけど、一度読んでみない?」と、会話のきっかけに使ってみてください。

法律や制度は、知らなければ私たちを縛る冷たい「壁」になります。

しかし、その根底には、人を守りたいという設計者の温かい想いが込められています。その想いを、私たちがあなたとご家族のために形にするお手伝いをします。

この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、未来への一歩を踏み出すための「お守り」となることを、心から願っています。


【参考文献・サイト一覧】

  • 法務省:成年後見制度・成年後見登記制度
  • 裁判所:成年後見制度に関する審判
  • 日本公証人連合会:任意後見契約、遺言
  • 厚生労働省:成年後見制度利用促進、地域包括ケアシステム
  • 全国社会福祉協議会:日常生活自立支援事業
  • 国税庁:タックスアンサー(贈与税・相続税関連)
  • 消費者庁:消費者契約法、クーリング・オフ、消費者ホットライン
  • 政府広報オンライン
  • e-Gov法令検索

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