この記事の目次
  1. 器具の名前より、本人の動きを制限する使い方を見る
  2. 転倒が心配なとき、先に検討できること
    1. 立ち上がる理由、おむつを触る理由も探す
  3. 緊急の例外は、三つの要件すべてを満たすとき
  4. 実施後も、観察・一時解除・再検討が続く
  5. 施設との話し合いが進まないときの相談

ベッドから降りられないように柵で囲む。車いすから立ち上がれないようにベルトをつける。転倒予防のためと説明されても、本人の行動の自由を制限するこうした使い方は身体拘束に当たります。

介護サービスで身体拘束は原則禁止です。緊急やむを得ない例外を検討する際も、家族の同意だけで実施できるわけではありません。「危ないから必要」という説明を受けたら、本人が動く理由と、拘束を避ける支援から話し合えます。

厚生労働省老健局「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)に沿って、家族が見聞きする場面を具体的にたどります。

器具の名前より、本人の動きを制限する使い方を見る

手引きは、身体拘束に当たるかを判断する要点を「本人の行動の自由を制限しているかどうか」と示しています。ひもで縛る行為だけが対象ではありません。

資料内5ページには、次のような行為も例示されています。

目にすることのある器具・対応手引きにある身体拘束の例
ベッドの柵本人が自分で降りられないように周囲を囲む
車いすのベルト・テーブルずり落ちや立ち上がりを止めるためにつける
ミトン型の手袋チューブを抜く、皮膚をかくといった行動を防ぐため、手指の機能を制限する
つなぎ型の介護衣脱衣やおむつ外しを制限するために着せる
立ち上がりにくいいす立ち上がる能力のある本人の動作を妨げる
居室への隔離本人の意思で開けられない部屋に隔離する

たとえば、柵について聞くときは、設置されている本数だけで決めず、本人が自分で出られるのか、何の目的で使うのかまで確かめます。用具名が同じでも、本人の状態と使い方を含めて説明を受ける必要があるためです。表は例示の一部で、これ以外の行為も判断の対象になります。

手引きには、行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させる行為も挙がっています。薬について疑問がある場合は、目的と本人の様子を医師・看護職に確認し、家族の判断で量や飲み方を変えないでください。

転倒が心配なとき、先に検討できること

「転んで骨折してほしくない」という家族の気持ちは、話し合いの場で伝えてかまいません。そのうえで、本人の動きを止める方法にも危険があることを踏まえて考えます。

手引きの資料内6〜7ページは、拘束による筋力低下や、拘束から逃れようとして起こる事故を挙げています。車いすごと転倒する、ベッド柵を乗り越えて転落するなどの危険です。動きを止めれば安全になる、と単純には判断できません。

転倒への対応として、手引きが示す環境調整には次があります。

  • 本人が通る経路に沿って手すりを設ける。
  • 足元に物を置かず、移動する場所を整える。
  • 車いすを本人の体に合うように調整する。
  • ベッドを低くする。

いずれも、利用先の職員や福祉用具・リハビリテーションの専門職と、本人に合う方法を検討するための例です。具体的な高さや器具の設定は、専門職に本人の動作と安全を確かめてもらいながら調整します。

夜間に歩こうとする場合には、手引きは生活リズムにも目を向けています。本人の状態に応じて日中の活動を検討し、昼夜が逆転していないかを確かめる考え方です。夜だけの様子に話を絞らず、一日の過ごし方も施設と共有できます。

説明を受ける際は、「転倒を防ぐために、動く経路や車いす、ベッドをどう見直しましたか」と聞くと、実施した対策が分かります。転倒の危険と、本人が動き続ける暮らしをどう支えるかを一緒に考えるための質問です。

立ち上がる理由、おむつを触る理由も探す

本人が何をしようとしているのかを把握すると、検討する支援が変わります。行動の背景には、言葉かけが伝わらないこと、不安や孤独、身体の不快感や苦痛などがあります。(資料内10〜12ページ)

立ち上がるときは、トイレへ行こうとしていないか。おむつを触るときは、汚れたままになっていないか。手引きでは、排泄の状態を評価してその人に合った介助を考えることや、汚れたおむつの不快感に対応することを示しています。

本人に伝わる声かけや、状態・生活歴に合う活動を考えることも、支援の候補です。家族からは、普段の生活習慣、落ち着いて過ごせる活動、困ったときの表情などを伝えられます。

チューブを抜こうとする場面については、手引きに、点滴が視界に入らないよう位置を工夫する例や、かゆみに配慮したガーゼの検討例もあります。(資料内22ページ)医療職が安全を確かめて検討する内容として、利用先に尋ねるものです。

「代わりの方法はありません」と説明されたときは、何を試し、本人がどう反応し、なぜ続けられなかったのかまで聞きたいところです。その記録が、次の方法を考える手掛かりになります。

緊急の例外は、三つの要件すべてを満たすとき

手引きが示す「緊急やむを得ない場合」は、ケアの工夫だけでは十分に対処できない、一時的な緊急事態に限定されています。三つの要件のうち、一つだけに当てはまればよいという扱いではありません。(資料内21〜22ページ)

要件確認すべき状態家族から聞けること
切迫性本人や他の利用者等の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いどんな危険が迫り、何を見てそう判断しましたか
非代替性身体拘束などの行動制限以外に代わる方法がないどの方法を試し、結果をどう評価しましたか
一時性行動制限が一時的であるいつからいつまでを想定し、何を満たせば解除しますか

切迫性では、拘束によって本人の生活に生じる悪影響も考慮します。非代替性は、複数の職員や職種で方法を検討し、試した結果を確かめることが求められます。一時性については、本人の状態に応じた最も短い時間を想定します。

この判断を担当職員一人や数人だけに任せず、事業所全体で行える手続きを設け、本人・家族や関係者が幅広く参加して検討する必要があります。実施と解除を、組織でどう判断するのかも説明を受ける事項です。

家族の同意は、身体拘束を認める根拠にはなりません。手引きの資料内25ページにも明記されています。入所時に方針の説明を受けていても、実際に行う時点で本人と家族へ個別の説明が必要です。書面への署名だけで、この検討が済むことにはなりません。

説明では、行う内容と目的、理由に加え、時間帯・期間も確かめます。本人にも意思があることを前提に説明し、言葉で表しにくいときには身振りや表情を読み取る努力が求められています。

「夜は人手が足りない」「以前から使っている」という説明を聞いた場合も、現在の本人が三つの要件を満たすと判断した根拠へ話を戻せます。

実施後も、観察・一時解除・再検討が続く

例外として実施した後も、必要性はその都度見直します。実施中の様子を定期的・継続的に観察し、三つの要件に当てはまるかを常に再検討する必要があります。該当しなくなったら、直ちに解除する扱いです。

職員が安全を確かめながら一時的に解除し、そのときの本人の状態から、継続が本当に必要かを検討することも示されています。(資料内24ページ)「解除予定日が来るまでは続ける」と固定する話ではありません。

家族が経過の説明を受けるときは、次を聞くと今の判断が分かります。

  • 開始時に問題だった状況は、現在どう変わっているか。
  • 実施中の様子を誰が、どのように観察しているか。
  • 一時的に解除したとき、本人はどのように過ごせたか。
  • 次の見直しはいつで、家族にどのように知らせるか。

施設・事業所は、拘束の方法と時間、その際の本人の心身の状態、緊急やむを得なかった理由を記録に残す必要があります。再検討のたびに記録を加え、本人の状態や家族の意見、今後のケアも関係者で共有します。(資料内25ページ)

面会で気になったことは、見た日時と本人の様子を添えて責任者へ伝えられます。以前説明を受けていても、その後の疑問を相談できます。器具や医療機器を家族の判断で外す前に、職員と安全を確かめてください。

本人に差し迫った危険があるときは、その場の職員や責任者へすぐに知らせ、緊急の対応を求めます。

施設との話し合いが進まないときの相談

利用先では、担当職員に加えて管理者や苦情相談の窓口へ、疑問と求めたい説明を伝えます。

納得できない点や困りごとは、担当ケアマネジャー、地域包括支援センター、市の介護・高齢者相談窓口などへ相談できます。久留米市の介護保険パンフレット(42〜43ページ)も、これらの相談先を案内しています。

手引きは、緊急やむを得ない場合の適正な手続きを経ていない身体拘束を、原則として高齢者虐待に該当する行為とし、本人の居住地の自治体への相談・通報が必要としています。(資料内5ページ)虐待が疑われる状況では、施設内の話し合いだけで抱え込まないでください。

久留米の窓口と相談の順番は、介護サービスの苦情を相談する手順で確認できます。見た行為と説明の内容、日時を残しておくと、第三者へ状況を伝えやすくなります。

在宅介護で家族が眠れない、見守りを続けられない場合も、対応できる時間と難しい介助をケアマネジャーへ伝え、サービスの追加・変更まで相談してかまいません。専門職が行える方法でも家族には難しい場合があると、手引きに記されています。家族が実施できる方法を、介護の限界も踏まえて考えるための相談です。(資料内22ページ)

次の説明の場では、本人が動こうとする理由と、拘束を使わずに支えるために試した方法を尋ねてみてください。そこが分かれば、家族が伝えられる生活習慣や本人の希望も具体的になります。

厚生労働省老健局「身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)と久留米市の介護保険パンフレットは、2026年10月10日に確認しました。本文のページ数は資料に印刷された番号です。

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